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病院から戻って来た二人は様子がおかしかった
「楓、話がある」
「何?」
そして漸く繭が話しかけて来た
「和海に会って来た」
「そう」
「最悪だった」
「今以上の最悪なんてあるのかな」
「和海は記憶を失っていた」
「記憶を?」
「病室にいた和海の瞳はとても澄んでいた」
「全て忘れたって言うの?自分のやって来た事全てを」
「うん」
「そんな・・・」
「今の和海を殺す事は容易い、でも罪の意識すらない和海を殺す事が出来るのだろうか」
「・・・・・・・・」
記憶を失った?
全て?
じゃ、殺される意味も分からないと言う事?
「世の中の悪人が記憶を失ったら死刑を免れるのかな」
「・・・・・・・・・」
「俺は繭達に任せる、すごく悔しいけど」
「楓」
「ごめん、少し一人になりたい」
「わかった」
繭の言っている事は理解出来た
でも、全てを許す事は出来ない
降りしきる雨の中をただ歩いた
今まで俺達がやって来た事は何だったのだろう
それすらも全て雨のように流されて消えてしまうのだろうか
少し湿った時計塔に登り床に座って煙草をふかした
空気が重いせいで、煙も重い
「捜したぞ」
「葵、今は何も話したくない」
「いいよ、煙草くれ」
葵に煙草を差し出し火をつけた
「今日の雨は涙雨だな」
「泣いていないけど」
「俺にはわかるんだよ、心で泣いてるくせに」
「・・・・・・・」
「高校生活ってさ、ホントに色々あるよな」
「うん」
「しかもここは普通じゃないし」
「うん」
「お前は楽しんでるか?」
「どうかな」
「そっか」
煙草の灰が床に落ちた
俺は何の為にここにいるんだろう
それすらもわからない
「最初はさ、お前の心が少しでも晴れると思ってここに誘ったんだけど」
「ここに来た時はかなり荒れていたけどね」
「まぁな、でもさお前変わったよ」
「・・・・・・・・」
「そのチョーカー、よく似合ってる」
「千裕の事なんだけど」
「ああ」
「忘れてしまってもいいのかな」
「俺にはわからない、でもお前が忘れたいのならそれでいいんじゃないか?」
「千裕は殺されたんだ」
「えっ?自殺じゃないのか」
「違う、千裕は生きようとしていた、でも和海が千裕を殺した」
「・・・嘘だろ」
「だから復讐すると誓ったのに・・・」
「俺は止めないよ、お前の好きにすればいい」
「したかったよ・・・だけど」
「だけど?」
「和海は事故で全ての記憶を失ってしまった」
「えっ?」
「千裕の事も、繭や翔に酷い事をした記憶も全て消えた」
「そんな事が」
「何も覚えていない和海を殺してもいいのかな」
「う~ん」
「今の和海を殺すと言う事は、何も知らない子供を殺す事と同じなんだよ」
「繭達はなんて?」
「わからない、でもすごく中途半端で嫌な気分」
「辛いな」
「記憶を失うぐらいなら死んでくれた方がどんなによかったか」
「だよな」
話をしても全然スッキリしない
俺の心は今日の天気のようにすごく重いままだった
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