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病院は退屈だ
痛みも今は無い
少し不自由だが仕方が無い
「失礼します」
「ああ」
「朝の検温に参りました」
面倒臭い
検温だの血圧だの、怪我には関係ないのに毎日毎日
初めて聞く声だな
俺の担当は決まっているはずだが
「おはようございます、ご気分はいかがですか?」
いつものように、背中を向けて言った
「変わらない」
「わかりました、では体温計を」
「ああ」
その時、初めて看護師の顔を見た
そして驚いた
「お前は?」
「はい、先週この病院へ来ました」
「いつもの看護師は?」
「体調不良だそうです、僕では気に入りませんか?」
「・・・・・いや」
「よかったです」
信じられない
目の前に居る看護師は燕羽とそっくりな顔立ちをしていた
そして瞳の色が金色に輝いていた
「その瞳」
「僕、ハーフなんです」
「そうか」
「母親がフランス人で」
「成程」
「5日程で担当の看護師は戻ると思います」
「いや、これからはお前が担当しろ」
「えっ?」
「女性は気を使う」
「いいのでしょうか?」
「俺がいいと言っている、師長にも俺から言っておく」
「わかりました」
血圧を測る手が触れた
何故俺は、心が躍っているんだろう
「はい、大丈夫ですね」
「名前は?」
「そうでした、僕松原と言います」
そう言ってネームプレートを見せた
「下の名前だ」
「あっ、和歌です」
「ハーフなのに古典的だな」
「日本が大好きな母が付けたそうです」
「そうか」
見れば見る程似ている
まるで生き返ったかのようだ
「あの・・・顔に何か?」
「いや」
「では、これで失礼します」
「ああ」
和歌か
怪我をしてよかったと、今初めて思えた
この日から、俺は和歌を待つようになっていた
「お食事をお持ちしました」
「ああ」
「今日はお魚ですよ」
「和歌は何が好きなんだ?」
「僕ですか?」
「ああ」
「お寿司かな、大好きです」
「寿司?」
「でも高いから回るお寿司屋さんしか行けませんけど十分です」
「何だそれは」
「彩流寺様は絶対行かない所です」
「冬矢だ」
「え?」
「冬矢と呼べ」
「さすがに呼び捨てには出来ません」
「気にするな」
「では、冬矢さんと呼びますね」
「ああ」
そう言って笑う顔もそっくりだった
「お寿司と言えば、銀座にある有名なお寿司屋さんの金額に驚きました」
「銀座?」
「テレビで観たんですけど、お任せで6万とか」
「そうか」
安い方だと思うが・・・
「じゃ、残さず召し上がって下さいね」
「ああ」
もう少し話をしたかったのに
病院の食事は食べた事が無い
携帯を取り出し、電話をかけた
30分もしないうちに和歌が言っていた寿司が届いた
食事を下げに来た時、和歌に差し出すと首を傾げていた
「お前が食べたがっていただろ」
「えっ?もしかして」
「受け取れ」
「でも、いただけません」
「じゃ、捨てろ」
「勿体ない!!」
「じゃ、ここで食べろ」
「・・・・いいのですか?」
「ああ、俺は寝る」
「ありがとうございます、いただきます」
背中越しでもわかる
きっと美味しそうな顔で食べているんだろう
「それから、お前は俺だけの担当にしたから」
「えっ?」
「他の患者は診なくてもいい、だから時間は気にするな」
「でも」
「院長は了承済みだ」
「まさかとは思いますが・・・」
「何だ」
「この病院って」
「理事は俺だ」
「ああっ、すみません!」
「何を謝っている」
「わからないですけど」
「そう言う事だから、俺が呼んだら直ぐに来い」
「わかりました、食器をおさげしますね」
「ああ」
「ご馳走様でした、とても美味しかったです」
「そうか」
似ているだけでは無い
性格も似ていた
俺はもう一度恋をするに違いない
今度こそ絶対に離したりはしない
相手の気持ちもまだわからないのに本当に笑える
だけど、手に入れたいと思った
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