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ミルクティーとクマのマグカップ
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「絵所くん、絵の具付いてますよ……あれ、取れない」
つんつん。
簡易キッチンで粉末状のロイヤルミルクティをマグカップに入れてお湯を注ぎ終えた頃合い。短く切り揃えた黒髪を引っ張られて反射的に振り返り、20㎝近く高みにある顔へと視線を向けると、親指と人差し指で俺の毛束を捏ねる先輩の角口が見えた。
「え?あ……油絵だから風呂で落とします、ありがとうございます」
「絵所くんって美術部なんですか」
拗ねたような口はあっという間に驚きの表情へと変化して面白い。先輩のタレ目は驚いて見開いてもあまり変わらないほどだということが最近分かってきた。
こうして、少しでも俺が生活しやすいようにと気を遣ってくれるところが本当に優しいと思う。
それにしても、そこまで驚くことなのかな。俺って絵とか描けなそうに見えてますか、先輩。
「先輩は何部ですか?」
「天文学部です」
その返答は意外だった。文芸部だとは思っていたけれど、まさかそんなロマンに溢れた部活に所属しているとは。
先輩は整った顔立ちで、タレ目な上にいつも微笑んでいるから第一印象は絶対にとても優しそうな人。
俺が通うこの学校では、高校生は生活態度が良好と判断されている人に限って身嗜みや制服の気崩しが自由とされているせいもあってか、先輩は茶髪で長髪。肩まで伸びた髪はサラサラで指通りが良さそう。
そんな見た目なのに、学力が学年で常に3本指に入っていることをついこの間の学力テストで知った。全国模試では上位の常連だっていうのだから本当に驚きです。
確かに勉強をちゃんとやっている姿はここ3ヶ月間、毎日見ているけれど、時間で言ってしまえばほんの1時間程度。
外が暗い頃合いはあまり部屋に居ないので遊んでいるのだと思ってたら、どうやら部活動に励んでいたらしい。
「今度、遊びに行ってもいいですか?」
先輩の分も用意したマグを取っ手を向けて差し出すと、にっこりと微笑んでお礼を言ってくれた。こういったところも抜け目ないというか、年上だな、と思うところですごく憧れる。好き好んで可愛らしいクマさんのマグを使っているところは何とも言えないけれど。
俺の好奇心に対して、先輩はにんまりとした笑みに変わり何かを企んでいるようだった。
「夜にこっそり抜け出してみます?」
「いいんですか!?」
熱くて飲めないミルクティをふーふー冷ましつつ、先輩の読めない思考回路を目線だけで観察しているとところへ返ってきた返事は突拍子もないもので、それは俺のテンションを一気に引き上げるに容易い内容だった。
「絵所くんの描いたもの見せてくれたら、っていう交換条件付きでどうでしょう」
俺の反応が良かったことに機嫌を良くしたのか、先輩は唇へと人差し指を添えて悪戯に微笑んだ。
こうして、俺の絵を見せるために明日の放課後に先輩が美術部の部室に来ることと、その後に門限時刻後に抜け出して先輩の企みに連れて行ってもらえることとなった。
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