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シンプル
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そわそわ。
先輩が見に来てくれるのはいつだろうと、今日は何だか落ち着かなくて部長に何度も大丈夫かと聞かれてしまった。
部活は中高合同で、高校生たちの巧みな技術に負けまいと必死に学ぶのはとても楽しいし、実際に年齢なんて関係なく評価してもらえるところも、のめり込める要因だったりする。
「お邪魔しまーす」
「あれ、扇田に星屋じゃん。二人揃って何の用?」
ガラガラっと扉が開く音に反射的にそちらを見ると、先輩と見たことのない高校生が一緒に入ってきた。
センターパーツで癖毛かセットかわからないけどお洒落に毛先が外はねしている可愛らしい感じの男の人。
2年の先輩が親しげに声をかけているから、きっとみんな同じクラスとかなんだって判断できた。
「可愛い後輩の絵を見に来ただけですよ、あ、いたいた」
「初めまして、君が絵所くん?僕は扇田(せんだ)です。哲くんが言っていた通り可愛い子ですねー」
「初めまして……」
なんだ……一人で来るんじゃなかったんだ。
少し残念に思えて、約束に浮かれていたのは自分だけだったのだと思い知らされた。
丁寧に挨拶してくれる扇田先輩に深々とお辞儀をしてからじっと先輩を見ると、先輩は何の事だかわからないようでにっこりと優しい笑顔を向けてきた。
少し女性的な扇田先輩と、先輩が並んでいると、制服を見ないようにしてしまえば、ちょっと恋人同士にも見える。
「どうかしました?角口になってますよ」
ふいっと視線を逸らして絵を描くことを再開させたら先輩が不意に頬を指先で突いてきた。そのことで初めて自分が拗ねていたことに気が付いて妙に恥ずかしくなって顔に熱が籠り焦った。
これじゃあ小学生の子供みたいだ。
「わーなんだかシンプルな絵ですねー、これから変わっていくんです?」
「そう?僕はこの状態が一番綺麗だと思いますね」
ドクンと胸が鳴った。
この絵はこれで仕上がり間近で、自分が思う綺麗という感性を理解して貰えたことが嬉しかった。それと同時に苛立ちも覚えていた。
「シンプルという言葉はあまり絵に対して使わない方がいいと思います」
「え?」
「簡単で、単純で、簡潔だと言っているのと同じです」
「え、え、あ、ごめんなさい!そんなつもりで言った言葉じゃ「絵所くん、邪魔してごめんなさい。部活終わったら昇降口で待ち合わせしましょう、また後で」
「……あ、はい」
しまった。
絵を描き始めたころから嫌いな言葉だったからつい反応してしまった、本当にこれでは癇癪をおこした子どもみたい。
怒ってるかな、先輩。扇田先輩も悲しんでいるかな。
ごめんなさい……
この後、扇田先輩の悲しそうな顔と先輩の真剣な表情がぐるぐるとあまたの中を巡っていて絵に全く手を付けられず、部活の活動時間も終わってしまってしょぼくれたまま昇降口へと向かうことになってしまった。
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