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オムライスとヨーグルトジュース
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「おはようございます、先輩」
「んんんんん、あと2分寝かせてください……」
「今からする2分の二度寝に満足感なんてなーいーでーすーよー!おーきーてー!」
「んんんんんんん」
「駄々こねないでー!せーんーぱーいー!ちーこーくーうー!」
先輩は異様に寝起きが悪い。
このように布団の中にミノムシのようになって、うーうーと唸る。
それを上から揺さぶりをかけてしつこく起こしにかかるのが俺の毎朝の日課となりました。
先輩に朝ごはんは俺が作ります宣言をしてから早二ヶ月。レパートリーも増えたし、栄養価が高くて美味しいものを食べてもらいたいと純粋に思って、まるで主婦のように携帯で献立を検索することが多くなった。
「よーしくん!おはよー!まーたメニュー考えてるの?そんなに楽しい?先輩との共同生活」
「おはよ。うん、すごく美味しそうに食べてくれるから何か嬉しくて」
転校してきて三ヶ月が経とうとした頃、短い髪をうまいことセットしてて目がクリクリとした阿野(あの)というクラスメイトと仲良くなった。
一番初めに声をかけてくれたのも、いつもニコニコとそばに寄ってきてくれるのも、この阿野で。
俺のことを良く見ているのも、彼だと思う。事実、こうして気にもかけてくれるし俺の顔色の変化も彼にはお見通しなようで。
「へらへらしちゃって~俺にもご飯作ってよ~」
「あー……いいよ?夕飯とか来る?」
夕飯、か。多分今日も先輩は夜部屋に居ないだろうから、いいんじゃないかな。阿野は部活でいつも遅いから夕飯は割とひとりで食堂になってしまうことが多いし。
「え!いいのー!?」
「うん。ただし、材料費カンパね~」
「あはは!ちゃっかりしてる~新妻みたーい!先輩に部活休みまーすって言ってくるね!」
元気いっぱいに駆け出していった後ろ姿は正に犬のよう。
こうして見ると大っきいワンちゃんみたいだね、阿野って。
ところで、夕飯俺と食べるから部活休みますってバカ正直に言っちゃうんだよね?それって大丈夫なの?
そんな心配をしていた休み時間の終わり間際、頭をさすって阿野が教室に帰ってきた。
「怒られたんでしょ」
「なんでわかったのー!?よしくんがご飯作ってくれるから休みますって言ったら、いつの間に彼女作ったんだって部長に叩かれた」
誰が彼女ですか、部長さん。よしくんって言ってるじゃないですか、バスケし過ぎて脳みそまでバスケットボールになってしまわれましたか。
「じゃあ、ダメそう?」
「ううん!粗相してふられてこい!って背中はたかれた!……よしくん、粗相ってなに?」
愛されているのかいじられているのか。それすらも嬉しそうに説明する阿野が面白くて笑うと、阿野はもっと嬉しそうに笑うから、二人で大声で笑ってたら数学の先生に怒られて罰のプリントを出されてしまった。
もー今日はご飯食べたら二人でプリント消化だね。
放課後になって買い物へ向かう途中、先輩らしき人が通った気がしたのだけれど、それがほんの一瞬過ぎて目で追えなくてわからなかった。
「今の、星屋先輩?」
「んーわかんない」
「星屋先輩って、なにが一番すき?」
「白米とお味噌汁」
「なにそれー!オムライス、とかハンバーグ!じゃないの?」
「ご飯は真っ白じゃないとダメなの、ふりかけとか玄米とか五穀米とかダメ。あ、炊き込みご飯は食べてくれる」
「へーお味噌汁の具材は?」
「大根。それにたまご落とすと嬉しそう」
「色々試してるんだね、おかずは?」
へーっと関心してるけど、これってなんの為の質問なの?それよりも今から食べる今日の夕飯考えようよって、さっきからオムライスって何度も言ってるから、これはオムライスで決まってるのかな。
「何出しても美味しそうに残さず食べてくれるけど、和食が一番嬉しそうかなー……煮物とか」
「先輩渋いね……肉じゃないんだ……」
「食べないことはないよ?あのね!今朝!ここにご飯粒くっつけてて気付かないの!本当笑った~」
「うっそ!あれ本当にやる人いるんだ!取ってあげた?」
「さすがに出来ないよ!だから教えてあげたらね……」
「うんうん!」
「真っ赤になってたー!あはは!」
「星屋先輩かーわいー!あははは!」
そんな先輩あるある話をネタに花を咲かせて終えた買い物はいつもひとりだっただけに楽しくて。
阿野の好物なヨーグルトのパックジュースを食後のプリント消化タイムが終わったらあげようと、お礼も兼ねてご褒美にこっそり買っておいた。
朝から作ることはそんなに機会がないって理由と、阿野が予想外にカンパしてくれたので、オムライスの上にハンバーグという少しリッチな夕飯にすることになって、腕を奮うこと一時間。
阿野がタネを捏ねるのを手伝ってくれたおかげもあってすぐに作り終え、学校終わりからずっと騒ぎに騒いできたのでお腹がペコペコだからと二人揃って無心で食らいついた。
「あー美味しかった!よしくん料理すごく上手!いいお嫁さんになるよ~」
「それあんまり嬉しくない」
「だよね~あはは!ごめーん!」
「あー腹はち切れる~寝た~い」
お腹がいっぱい過ぎてごろりと二人でその場に寝転がると、どっと睡魔が襲ってきてゆったりと重くなっていく瞼を受け入れて心地よさに浸っていると阿野が騒がしく体を揺さぶってくる。もー寝かせてー。
「よしくん!ダメだよ!プリント!プリント!」
「あ~そうだった~も~う~」
「よしくん頭いいからいいけど!俺が数学苦手なの知ってるでしょ!早く!」
「わかったよ~じゃあ、片付けてくるからここ拭いといて~」
眠気と戦って今にもくっつきそうな瞼を擦って二人分の食器をまとめて持ち上げようとしたところでへらりと笑う阿野が視界に入ったから、布巾を顔に向かって投げると変な声が聞こえた。うぶ!ってなに~面白いからやめて~。
先輩はちゃんと食器片付けてくれるんだぞ。とか思いつつ、いつもならすぐ片付けるのにどうしても面倒で、後で洗えばいいとばかりに食器を水に浸して共同スペースのリビングに戻ると、阿野がプリントを早々と広げていた。
「ねぇ、俺の部屋でやろうよ」
「え?あ、そっか!俺いつもリビングでやるからつい!」
「……相部屋の先輩に嫌がられない?」
「ん?全然!先輩は部屋にいること多いし、わからないとこ教えてくれるよ!」
ふーん。そっか、俺も先輩に勉強教えて貰おうかな……だって、ものすごく頭いいもんね。
その後そのままリビングで唸りに唸った阿野にプリントを写させることなくみっちり教えぬくこと1時間。げっそりした阿野をお見送りして感じる孤独感。
どうしてだろう、この部屋でひとりになるのは妙に寂しさを感じるようになっていた。
リビングを散らかしてしまったのですぐに片付けて部屋に戻ると、先ほどの眠気がぐーっと帰ってきてウトウトと眠ってしまった。
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