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アイスクリームと秘密花火
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何もしなくてもじんわりと汗をかく季節がやってきた。
お気に入りのTシャツには絵の具を散りばめたような彩色と、女の人の横顔がすっと描かれている。そのTシャツが汗でべったりとくっついてきているのが気持ちが悪いくらいに今年も暑さが付き纏っていた。
学校指定のハーフパンツジャージは一番リラックス出来て好き。
一番リラックスできる格好で、扇風機の風を顔に浴びてリビングでまったりする時間が好き。
ソファではなくラグの上に足を伸ばして座り、逆にソファを背凭れに読むのは最近お気に入りの小説。言葉巧みに展開が目まぐるしく変わるSFホラーストーリー。
こうしてリラックスしてまったりとした時間を過ごすことが出来る様になったことに少し安心している。
このことを阿野に言うと、全く知らない人と急に始まる生活に不安が襲ってくるのは極当たり前だと、意外にもまともな返事が返ってきた。俺よりも1年前にこの生活を始めていた阿野の言葉は、妙に説得力があって、安心感を与えてくれる。
心置きなく集中していたせいもあってか、時間の経過と物音に全く気が付かなかった俺は、突然感じた頬の冷たさに悲鳴をあげる。
「つ、つっめた……!……あれ、先輩。おかえりなさい」
「ただいま帰りました。僕は2回も声をかけましたよ?あまりに無視されるので少し悪戯してみました。一緒に食べません?」
呆れたように、それでいて少し悪戯に肩を竦めて俺の頬にアイスクリームの袋をくっ付けてきたのは同室の先輩。俺の今の安心を与えてくれる保護者的な人。
どちらがいいですか?と両手に持っているのはチョコレートコーティングされた棒状のアイスと、バニラの棒状アイスで、俺は迷わずにバニラを選んだ。
「ありがとうございます、先輩が帰ってきたの全然気付きませんでした」
「でしょうね、驚くくらいに集中してたみたいですから。何を読んでいるんですか?」
コンビニの袋をテーブルの上に置いてソファに腰かける先輩は俺の頭上でガサガサとアイスの袋を開けているようで、そちらに顔を向けるとすぐ近くに顔があって驚いた。
「うぇ、あ、SFホラーです」
「面白そうですね、読み終わったら貸してくれますか?」
「あ、はい!すぐ読み終わると思うので明日にでも……」
アイスを口に含んで俺の小説を覗き込んでくる距離の近さに何故かドギマギしてしまって、顔を元に戻して小説に栞を挟みテーブルへと置いて、それが気付かれないように自分もアイスを食べようと袋を開けたら、漸く後頭部から熱が消えて気配が遠ざかった。
扇風機の風が先輩にも当たるように首振り機能に変更して、二人でのんびりと無言でアイスを頬張る。これといって会話がないわけでもないけれど、暑さで溶けたアイスが棒を伝って垂れてきてしまうからお互いに何となくそちらに集中しているんだろう。
つー、っと腕を伝うバニラ。勿体ないと横着にそれを舐めとると後ろからティッシュが伸びてきた。
「あ。ありがとうございます」
振り返ってみれば、いいえ。と微笑む先輩は棒にティッシュを巻いていた。高校生ってそこまで配慮できるものなんだと、その自分よりもちゃんとしている先輩に関心と憧れを抱いて、今度は俺もそうしようとか心の中で忘れないように記憶に留めて、一気に残りのアイスを口に含んで、棒を咥えたまま貰ったティッシュで腕を拭いた。
四つん這いでゴミ箱へ向かい、これまた横着をしてあと少しの距離でティッシュを投げたら見事に外れたので、ふて腐れて気だるく立ち上がって口に咥えたままだった棒と袋もついでにちゃんと捨てた。するとどうだろう、クスクスと楽しげに笑うのが背後から聞こえてくる。
「笑わないでくださいよー、ノーコンとか思ってます?」
「ふふふ、いえ、ご機嫌取りにこんなのやります?」
腰に手をあてて不満を送ると、楽しそうな先輩はコンビニ袋から何か細長い袋を取り出した。
ーーー線香花火だ。
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