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アイスクリームと秘密花火
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「え、今から外出るんですか?」
「まさか。それだったらもっとセットとか買います」
悪戯な表情で口元に人差し指をあて、その指を先輩はベランダへと向けた。
……その瞬間に全てを理解した俺は大きく何度も頷いて、胸の前で握り拳を作っていて。テンションの上がり具合を理解してくれた先輩はゴミに捨ててあったリッターのペットボトルをハサミで半分に切って水を入れて持ってきた。
「さ、始めましょうか」
にっこりと笑んで先にベランダに出る先輩に続いて、しゃがみ込んだ先輩の前に同じようにしゃがみ込む。
向かい合って真ん中に置かれたのは水の入ったペットボトルと解かれた線香花火。
「はい、じゃあ、勝負しましょうか」
「望むところです」
手渡された線香花火と、差し出されたライターの炎。二人で一緒に火を点すとすぐに大きな玉ができて、パチパチと軽快な音が聞こえてくる。
丁度良く暗い外で、弾けて光る火花と火薬の焼ける独特の匂いが広がる。
聞こえてくるのは微かに遠くで聞こえる車の走る音と、自分たちの手元の火花音だけ。
勝負に負けたくなくて息を止めて必死に見つめる伸びたり縮んだりする火の玉。大きく火の花が広がる最高潮の瞬間、本当に何気なく目線を上げると、先輩と視線がぶつかった。
その瞬間、少し眉を下げて笑う先輩は何だか泣きそうで、とても寂しそうで、本当に、その表情が。
―――綺麗だと思った。
一瞬の事だったのに、はっと我に返った瞬間、ほんの少しの揺れで俺の火の玉が地面に落ちた。
「ああ!!!」
「僕の勝ちですねー」
「もう一回!!先輩!もう一回!」
えー?とふざけて返事をする先輩はもうこっちを見ていなくて、いつもの調子だった。それに触れてはいけない気がして、俺は明るく振る舞った。知りたいのに、何だか触れるのが怖かったんだ。
線香花火勝負は10勝8敗で、結局2回しか勝つことができなかった。
トータルで負けた俺は罰ゲームでデコピンを負けた回数だけ喰らうことになり、8回目を頂戴した時にはもうベランダで悶え死んだ。
ベランダでくたばる俺を放置して証拠隠滅の処理をさっさとしてくれる先輩の背中をこっそりみつめていた。先輩は、手の届きそうな雰囲気をだしているけれど、本当はどうしようもなく遠いところに居る。
こちらを振り向かない先輩に手を伸ばすと、それは、まるで夜空の星を掴もうと手を伸ばしている感覚と似ていた。
先輩が星だったら、神話はどんなお話ですか?
それが悲しいものでないといいな、と密かにそんなことを思った。
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