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ひよことブタ
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「麦茶ここに置きますね」
ことりと背後に置かれたコップの中の氷がからりといい音を立てた。
隣りに腰掛けた先輩も両足を突っ込んで、なんだか足湯みたいになっているけどウダウダしていたさっきよりも断然涼しくて断然楽しい。
「ありがとうございます……先輩……それ、なんですか?」
「じゃーん、ひよことブタどっちがいいですか?」
どっちがいいですかって……。
先輩が両手に持って見せてくれたのはゴムで出来たオモチャ。
体を押したら音が出そうなその見た目は、随分と可愛らしくて幼稚園児が好みそうなフォルムをしていた。
「あ、えっと、じゃあ……ブタ、で」
どっちが、ということは選ばなかった方を先輩が使うのだろうと思って、なんとなくヒヨコを持って遊んでるところが見たくてブタを選んだ。
控えめに差し出した掌にブタくんがやってくると、やっぱり体がふにふにと柔らかくて感触は想像通りだったのに音はしなかった。
すると、先輩がヒヨコをプールに突っ込んで揉み出すので、仰け反っていた身を乗り出して様子を見ていると、急にヒヨコの口から水が発射されて俺の顔面に飛んできた。
「ぶわっ!」
あはは、と楽し気に笑う先輩は再びヒヨコをプールの中で揉んで準備をしている。先輩、何気にそのヒヨコ、ジェット噴射して痛いって知ってますか。
「ずるいですよ!水鉄砲なら水鉄砲だって早く教えてくださいよ!」
「嫌ですよ、言ったら先制出来ないじゃないですか」
しれっとズルいことを言ってのける先輩にポカンと空いた口が塞げずにいると、その口を目掛けてヒヨコで攻撃された。
辛うじては避けたけれど、既に髪まで濡れている状況は悪化して、部屋のフローリングもしっかり水浸しである。
負けじとブタくんを水の中に突っ込んで準備している間も俺ばかりフルボッコで、顔面にヒヨコ攻撃を延々とくらうものだから、流石に吠えてブタくんで攻撃を仕掛けるとなんと。鼻の穴から水が噴射されて、俺以上に避けきれなかった先輩が驚いていた。
「ごほっ!……っ、ブタくんズルいですね!」
その後、お互いのヒヨコとブタで何度も攻撃を仕掛けたこともあって見事に髪もTシャツもビショビショ、フローリングも掃除が大変なくらいに水浸し。
それでも攻撃をやめないのは、お互いの表情でわかってるからなのかもしれない。
今しかできないこと。
今だから、楽しいこと。
笑い声は絶えなくて、同じことを繰り返しているだけなのに飽きなくて。
はしゃぎ疲れて倒れ込んだ時には麦茶の氷は形をなくし、プールの水は温水のように温かくなっていた。
「せんぱーい……掃除大変ですよ、これ」
「ある程度は乾くと思っているのは甘い発想ですかね」
「ふふふっ、無理じゃないですか?相当ビッショビショですよ?」
「ですよねー、休憩したら頑張りましょうか」
「そうですねー」
心地良い風が吹き抜けて、足は水に浸り、水遊びしたこともあって丁度良い体感温度と疲労感でウトウトと微睡む。
水に揺られるようにユラユラと揺れる、感覚。ゆっくりと微睡んでいく、感覚。
すぅ、と二人で自然に眠りについた数時間後、すっかり日も落ちてクシャミをして起きた俺がその状況に慌てて先輩を起こすと、先輩はしまったとばかりに苦笑を漏らした。
風邪はひかなかったから良かったけれど、完全に気怠い身体を奮い立たせてする掃除は正直しんどかった。
「来年は早めに予定立てて海とか山とか行きたいですね」
掃除中にふと言った先輩の言葉。
来年のことを、約束じゃないけれどそういった形で考えてくれていることが嬉しくて何度も頷いた。
俺はこのプールでも充分に楽しかったです、きっとお出掛けもこのプールを入手してきてくれる口実だったんじゃないかって。
俺が毎日つまらなそうにしているからしてくれたんじゃないかって。
ブタくんにだけそっと呟いたら、ブタくんの鼻から残っていた水がぴゅーっと細く出てきて笑ってしまった。
きっと、という言葉が楽しい。
きっと、そうだったらいいな。
きっとがそうでなくても、嬉しかったです先輩。ありがとうございました。
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