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悪戯と王子様
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「……君たち、うちの生徒じゃないよね」
総栄高校に乗り込んでほんの5分と経たない頃の事。
背後から突然聞こえた声に俺たちはぎくりと肩を震わせ、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れずにいた
。
恐る恐る振り返ると、そこには美麗、という言葉がぴったりなお伽話の王子様がお話の中から
飛び出てきたみたいなイケメン様がいらっしゃった。
綺麗な瞳を光らせて俺たちを上から下まで確認していらっしゃいます。
「……あ、えっと……」
「何しにうちの学校へ?」
明らかにバレている。どうする、と阿野と目配せをするが怯えきった阿野は瞳孔を震わせて拒
絶のみを示していた。
俺も咄嗟にいい判断が出来ずにいて、逃げるにも阿野は逃げ切れるが間違いなく俺が捕まって
しまうだろう。そう思わせるほどの威圧感とオーラをそのイケメンは放っていた。
「ご、ごめんなさい!好奇心で忍び込みました!何もしないです!ぶらついたら帰ります!」
阿野の腕を引いて思い切り頭を下げると、驚きと困惑で動揺していた阿野も一旦の間を置いて
から同じように謝罪の言葉を叫んだ。その声があまりに大きくて廊下に響き渡る。
無言の間。
深々と額が膝につきそうなくらい頭を下げて、そのまま止まっている時間が妙に長く感じて。
沈黙が静寂になって、俺の額には嫌な汗が滲んでいた。
どの位そうしていただろう、頭上から楽しげな笑い声が聞こえてきたのだ。恐る恐る視線だけ
を覗かせて確認すると、その声の主はやっぱりイケメン王子だった。
「……」
無言で視線を合わせた俺と阿野の顔が更に面白かったようで、すごく綺麗な顔で真っ白な歯を
見せて笑っている。
「……あの……?」
「ああ、ごめんね。そんな素直に謝った人初めてだったから、ちょっと面白くて笑っちゃった
。君たちどこの中学生?」
「…え、あ。春中、です」
「春ヶ峰、か。一貫校の子ね、悪さしないでね。大人しくしてればお咎めはしないよ」
お咎めとは何だろう。この人は何者なんだろう。
きっと同じ想いを抱いていたのだろう、俺と阿野はポカンと間抜けな表情でお互いの顔を見合わせた。
にこりと微笑む表情は名付けるならプリンススマイル。本当に王子様みたいなイケメン王子は、すっと去りゆく背中もすごく決まっていて。その去りゆく途中で明るい茶髪の人が走り寄って来て王子の事を石神(いしがみ)さん、と呼びかけていた。
「何者だったんだろうね」
「さぁ……」
「あ。ゲームする?」
「なに?」
「先に石神さんが何者か情報入手した方の勝ち!」
「負けた方がジュース奢りね」
一瞬真顔になった後、互いにニタリと笑ってよーいドン!で真逆に走り出す。
校内のどこに何があって、知らない誰かといつどこで遭遇するかわからないスリルに胸が高鳴る。
さっき会った人とまた会うかもしれない。そうしたらどういった顔をすればいいのだろう。
勢いよく走り回って少し息が上がったころ、誰もいない廊下は綺麗に西日が入っていて斜めに光が差し込んでいて。そこに一人で佇むと何だか幻想的にも感じる。
静か……。
自分が宙に浮いているような不思議な感覚に見舞われていて、ぼんやりとしているとポケットに突っ込んでいた携帯が震えた。阿野かな。
引っこ抜いて画面を確認すると、そこには「星屋 哲」と表示されたいた。
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