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悪戯と王子様
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「え?え、え、え、ちょっと、え、外……!」
慌てて周囲を確認すると、すぐ近くに中庭らしきところに出られる通路を偶然発見して、そこへ向かって全力で走った。どうか、切れないで!
「……はぁ、はぁ、せ、先輩?」
≪外ですか?すみません、切りましょうか≫
「え!?いえいえいえいえ!大丈夫です!」
≪これといって急な用事でもないので大丈夫ですよ?≫
「……ふー。大丈夫です、どうしたんですか?」
≪お土産、何がいいですか?≫
駆け出してきたところはやはり中庭だったようで、ご丁寧にベンチまで設置されていた。この学園は妙に造りに凝っていてこのベンチひとつにとっても、造形にとても拘りが伺える。
少しお借りしようと深く腰掛けて短い溜め息をついて落ち着こうと思ったのに、先輩の予想外の質問に身を飛び起こした。
「え、買ってきてくれるんですか」
≪沖縄のお土産なので定番のものになりそうで。希望がそこはかとなくあれば≫
「海!明日、海行きますか?」
≪海水、とか言いませんよね≫
「言いませんよ!貝殻、拾ってきて欲しいです」
≪貝殻、ですか?また変わったものを欲しがりますね≫
「予定になければちんすこうがいいです、あ。シークワーサーとかやめてくださいね」
≪酸っぱいもの苦手なの知ってますから大丈夫です≫
電話の向こうでクスクスと笑い声が聞こえる。先輩の控えめで楽しそうな笑い声。きっと今、顎に手の甲をあてて笑ってる、先輩の笑う時の癖。あまり楽しくないときはしないけど、本当に楽しい時はそうやって笑うことに最近気が付いた。
「先輩あ「よーしくーん!そんなとこにいたー!石神さんのことわかっ……あ、ごめん電話中だった!」
≪石神?≫
阿野の大声で俺の言葉が遮られた瞬間。先輩の声色が変化した。
「え、あっと……」
≪今、学校じゃないですね?≫
「あの……はい」
≪石神君の何が知りたいのですか≫
「え?先輩、知ってるんですか、あの王子みたいな人」
≪王子……総栄の生徒会長でしょう?顔見知りですから知ってますよ。それで?どうして調べているのですか?≫
通話口から聞こえる先輩の声色が低く、怒っているように聞こえて萎縮したまま素直に白状した。
忍び込んだこと、その途中で石神さんに見つかったこと、そこから調子に乗ってその人の情報取集という遊びをしていて今に至ること。
全てをとても小さな声で相槌だけを打っていてくれていたけれど、話し終えて沈黙が生まれた。ああ、怒っている。だって今、小さな溜め息が聞こえた。
≪今すぐ帰りなさい。石神君が融通の利く人だから今はそれで済んでいるだけです。もし教員に見つかったらどうしますか?何か物を壊してしまったらどうしますか?ちゃんと責任取れないのだから、帰りなさい。いいですね?≫
「……はい、ごめんなさい」
先輩はそれきりで通話を終了させた。
ああ、なんて馬鹿なんだろう。楽しくて楽しくて、これを正当化していた。
「よしくん……、大丈夫?」
「阿野、帰ろう。さっきの人、ここの生徒会長だった。何かあったら問題になるから……」
「あ、うん。それ、俺も言おうと思って探してた」
「じゃー俺の負けだなー、帰りにコンビニでジュース買ってこ」
「そうだね」
阿野は生徒に遭遇して、石神さんのことを尋ねたら「生徒会長に何か用?」と聞かれて震えあがったらしい。しかもその尋ねた人も生徒会役員の方だったそうで、思い切り謝って逃げてきたらしい。如何にも阿野らしいけれど、それって逆に不審者感が満載だよね。
もうやめようね、と小学生みたいに二人で反省してコンビニでジュースを買って帰った。
阿野は俺の分を買って、俺は阿野の分を買う。勝負は阿野の勝ちだったし、これじゃ全く意味がないのだけれど、俺たちの中ではなんだか納得のいく行為だったので、仲良く並んで飲みながら帰路を行く。
俺たちの後からついてくる影は、グングンと伸びていた。
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