アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
マーブル模様の混ざり具合
-
……眠い。
最終日は大阪で有名なレジャーランド。なのに俺はすっきりしない心持ちで3人の後ろを歩いていた。
前の3人は相変わらず女子を適当に蹴散らしてあれに乗ろうこれに乗ろうと真剣に会議をしている。
「よっしーはお土産買えた?」
いつの間にか俺の隣りに下がってきたのは池鶴だ。普段そこまで表情が豊かなタイプではないけれど、にっこりと笑ってくれていてその顔は確かにモテそうなイケメンで、一瞬質問の内容を忘れていた。
前を向くと班長と阿野がいない、どうやら2人戦場に向かう前にトイレに行ったらしい。
2人の帰りを待つことになっていたらしい俺と池鶴は近くのベンチに腰掛けた。
「あ、いや、まだ。池ちんは京都で買ったやつあげるんでしょ?」
「うん。眼鏡ケースなら使ってくれるかなって思うし、グリーンの綺麗なやつが似合いそうだったから」
グリーンとは予想外だ、女の子なら赤とかピンクとか選ぶと思ってたのは俺だけだったのか。あ、緑とか紫が好きな落ち着いた人なのかもしれない。
その人の事がとても好きなんだろうな、と思わせるような照れた様子の池鶴に何だか不謹慎にも模索心が芽生えてしまって、俺は身を乗り出した。
「年上の人?」
「うん、働いてる人。すごく年上でね…秘密なんだ」
「そっかーしつこく聞いちゃってごめんね」
これまた予想外。働いている、とかだとすごく年上なのかな。え、もしかして一回り上?秘密ってことはきっとそんな感じなのかもしれない。
ちょっとした好奇心はもしかしたら池鶴に言わせたくないことを無理強いしているのかもしれないのに、嫌な顔ひとつせずにむしろ合わせた両手で手遊びをして受け答えしてくれる。こういうところがクールな顔立ちの池鶴がたまに見せる可愛らしいところだと思う。
「ううん、よっしーは誰にあげるの?」
「同じ部屋の先輩」
「付き合ってるの?」
「え?」
「あ、ううん、なんでもない」
時が止まった。
俺たちの寮は男女別ということは池鶴もきちんとわかった上での自然に口に出た質問。
しかもその質問に明らかな疑問と戸惑いを見せた俺に対して素早く逃げる様に話を遮った池鶴は一瞬だったけど表情を強張らせたのを俺は見逃さなかった。
と、いうことは。
「え、あ、え?あ、ええ?」
「しー!よっしー!しー!」
人差し指を口に添えて必死に俺の口を塞ごうと慌てる池鶴。
やっぱりそうだ。
池鶴の恋人は、すごく年上の男の人だ。
「え、うあ、え、え、あ、そうなんだ」
「……友達やめたくなった?ひいた?」
「ビックリした!」
口を中途半端に塞がれて動揺する声を未だ漏らす俺に対して、池鶴はとても困った顔で眉を下げていた。
なんだか怯えるその姿は小動物かなにかのようで、いつも淡々、飄々としている池鶴では考えられないほどか弱いもので。
それがどうこうと言うわけではないけれど、不快感も感じなかったしこうして触れている手もいつも通りの感情でしかないので素直な感想を口にすると、池鶴はほっとしたようで俺の口元を開放してくれた。
「よっしーらしいね、元気ないのは先輩となにかあった?」
「え、あーうん。なんかね、ここがぐるぐるぐるってなってる」
曖昧な内容で胸だか胃だかのあたりを指先でくるくるまわすと、ああ。と池鶴はひとりで納得して内容を教えてくれない。
そして何故かそのまま質問はどんどん先に進行してる。
「そっか。先輩ってキャラクターとか何か好きなものある?」
「……あ、クマ」
「んーじゃあ、ネタで被り物とかあげたら笑ってくれるかも」
「被り物かー面白そう、でも喜んでくれなかったらどうしよう」
「一生懸命選んでるんだからそんなことないよ、よっしーだって先輩が笑ってくれたら嬉しいでしょう?」
「うん」
「じゃあ、一緒に笑える楽しいものにしたら、そのぐるぐるもどっかいっちゃうと思うな」
「池ちん大人だね」
「そうかな、好きな人が大人だからかもね」
そういって笑った池鶴は俺の知らない大人びた表情をした。
「なーに内緒話しーてるのっ」
突然背後から抱き付いてきた阿野のせいで話はそこで終わってしまった。
改めて4人揃うと、池鶴は秘密ね。と口パクで俺に言って定位置の班長の横へと戻って、今度は俺の定位置だと阿野が隣りにきた。
何かが、ストンと胸の中に落ちたような気がしたのだが、よくわからないままに俺は元気を取り戻して4人で全力で楽しんだ。
騒ぐだけ騒いだ後、長い長い道中をみんなで爆睡して気が付いたら帰って来ていた夜。
先輩は俺がメールを無視したことなんて一言も言いもせず咎めもせずに2人分のミルクティを淹れて笑顔で出迎えてくれた。
沢山眠って帰ってきた俺は元気で元気で、花咲くお土産話をとても楽しそうに聞いてくれた。
迷いに迷って、探しにさがしたお土産はクマのキャラクターのスリッパで。先輩は愛想でもなんでもない嬉しそうな笑顔でそれを履いてくれた。
手にはクマの絵柄のマグカップ、足にはクマのキャラクターのスリッパ。
とっても似合っているし、笑ってくれた。
池鶴の言う通りで、一緒ににこにこ笑っていれば、ぐるぐるはどっかにいってしまった。
その正体が何なのかは今を楽しんでから先輩に教えて貰おう。
ぐるぐるマーブル模様で渦巻いていく、ぐるぐる痛くて苦しいもの。
ぐるぐるマーブル模様で溶けていく、ぐるぐる温かくて優しいもの。
ぐるぐるは沢山種類があって難しい。
絵の具のようにうまく自分の思う色になってくれない。
でも、だからこそ気になって、だからこそ知りたい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 65