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春 恋の芽生え
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「大切な人を描いてください」
なんてわけのわからない議題だろう。一体全体我が顧問はそんな絵で誰を描かせようとしているのだろうか。
親?兄弟?それとも恩師?中学生の自分にそんなことを感涙するほどに感じ取れるとでも思っているのだろうか。
ぼんやりと目線で見つめる真っ白なカンバス。さっきから傾けたままの首がそろそろ痛くなってきた。みんな議題発表の初日ということもあってか、ある程度済ませたのか散り散りに帰ってしまったらしく、ひとり取り残された部活教室。
高校生の先輩たちまで帰っちゃうとは思わなかった、あそこに無造作に鍵が放置されてるってことは俺が鍵当番しろってことですか、はいはーいかしこまりましたよー。
とりあえずと言わんばかりに黄色を殴るよう塗りたくる。星が強く光を放ったような色で好きだから。ただ、それだけの理由で親指に力を込めて筆を握る。
ああ、どうせなら星でも描いてしまえば良かった?今から濃紺に塗りつぶして……そこに白と……そうだ、大切な人。いるじゃない。いつも楽しさをくれる人が。
つまらなかった毎日に色をくれた人が。
そうだ、家族のように大切なあの人にしよう。この議題にぴったりだし、本人に勝手に描いたことがバレたっていつもありがとうって気持ちですって言えばいいじゃない。
……それにしても。
家族のように大切って変じゃない?あの人は他人なわけで兄とはまた違うような……先輩だから友達ってわけでもない。
女の人でもないから恋人でもない。
毎日一緒に居て楽しいし、先輩がいない夜は寂しいと思う。俺の事を知ってほしいと思うし、喋り下手な先輩が話をしてくれることはどんなにくだらない小さなことでも嬉しいと思う。
先輩に用があって高等部の棟に行ってお友達と楽しそうに話をしているのを見るのは正直なところ面白くない。いつも困ったさんなのに、楽しそうに笑うのはずるい、それを俺といるときにも沢山して欲しい。
そういえば、池鶴の恋人ってどんな人なんだろう。どういったところが好きで、どういったきっかけでその人が好きだって気付けたんだろう。
好きって気持ちの違いってどこに見えてくるんだろう。
クラスの友達も、阿野も、先輩も。
みんな大切でみんな好き。
恋人になる好き…特別な好き…
「できた。こっからもうちょっと塗り込んでいけばいいじゃーん、俺今回1番あがりかもー……」
気もそぞろに、思い浮かべていたままに書き上げた筆先の人物に目を見張った。
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