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罰ゲームと願い
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さあ、俺と先輩の攻防が始まった。
負けるつもりもないし、勝てる自信もないです。
じゃあ何故、果敢に挑んでいくのかというと。
その位に先輩に恋い焦がれる胸の衝動を知ってしまったから。
「先輩、好きです」
「ありがとうございます」
先輩はこうしてお礼を言う。
そうして、眉を下げて困ったさんな顔をして笑うんだ。
「お礼を言うなら名前で呼んでください」
「ええ……」
「なんですかその顔、いいじゃないですかぁ」
俺と先輩は今、美術部の部室に居る。
先ほど非常勤講師の先生にコンクールに出す絵の総評を頂いていて、その様子をたまたま通りかかった先輩が興味を示して見ていて先生と入れ替わりで部室に入って来て俺の絵をじっと眺めているので交渉を始めたところ。
好きだと気付いたら、名前で呼んでほしいという欲求でいっぱいになった。
なのに、今生の願いでお願いしても先輩は表情を苦虫を潰したようなものにしてる。
「美教くん」
「呼び捨てで」
「それは出来ないです」
このお願いももう何回しただろう。
またその話か、と言わんばかりの明らかな顔をされると流石に申し訳なくて心が少しだけ折れそうになる。
でも。
先輩は引いてしまえば追いかけてくれる人でも引き留めてくれる人でもない。
離れていったらそのまま。そうですか、さようなら。な、人。
こうしてしつこく食い下がると、仕方がないですねとでも言いたそうな顔で諦めてくれる。
色々と諦めるのが得意な先輩は星を見ることにしか情熱を注いでることしか知らない。
きっと物凄い成績だって取れるのに、取ろうとしていないようにも感じれるし、鍛えれば成果が出そうなのにそれを望んでいないようにも見える。
そう、先輩は快活に生きることを諦めている。
「むー譲歩するよー、俺は哲さんって呼んでもいい?」
「その絵、綺麗ですね」
「聞いてる?」
こうして好きなんだとわかってしまえば本当に色々と気付くことが急に増える。
例えば、先輩は逃げるのがうまい。
やんわりと笑っているのは都合の悪いことからうまく逃げようとする手段らしい。
「すごく、綺麗です」
「ありがとう、勝手に呼ぶからね」
「部屋でだけにしてくれます?」
「聞いてるじゃん!当り前だよ、俺もそこまでバカじゃない」
「絵所くんは賢いですよ」
例えば、褒めるのがうまい。
心から思って言ってくれているのは伝わるのだけれど、こういうときは大体相手の機嫌を取って元の会話をどこかへ消して紛らわしてしまおうとするとき。
「TPOはわきまえるくらいの常識はあるんだ……むー名前ー」
「あ。ごめんなさい」
「もーあれね、5回間違えたら罰ゲームね」
「5回も譲歩してくれるんですか」
「ただし5回間違えたらちゅーしてもらうからね」
「えええええ僕ばっかりリスキーじゃないですか?」
「いいの、俺がこんなに好きなのに困った顔するだけの哲さんが悪い」
例えば、思わせぶりな事をする。
俺が好きだ好きだと言っていることにごめんなさいとか、未来はないから諦めてねとか、気持ちには応えられないとかは一切言わない。
そして、冗談でもキスをしてと罰ゲームを提案しても嫌がる素振りだけで断らない。
本当に5回間違えたらどうするつもりなんですか?してくれるんですか?
困った顔だけ。
返事は、イエスでもノーでもない。
困った顔でお礼を言うだけ。
俺はその度にチクリチクリと胸が痛んで、優しくしてもらえて笑ってもらえる度に胸が高鳴って跳ね上がる。
その繰り返しを続けてもう一か月、5月を迎えようとしていた。
「綺麗ですね」
「ありがとう」
「やけに素直ですね」
「哲さん綺麗だなって思って」
「嘘ついてますね、何を考えてますか」
「内緒」
「そうですか」
嘘ではないよ、きっと意味が違うだけ。
綺麗だとは思ってた。
その俺の絵を見て泣きそうな顔をする哲さんが綺麗だと思ったんだよ。
どうして泣きそうな顔するの?この絵のテーマは幸福とか芽生えとか春めいた作品だよ。
「哲さん、俺コンテストで賞取るね」
「物凄い自信ですね」
「賞取ったら俺の願い事聞いて」
「そればっかりですね」
「いいから、一個だけ」
「いいですよ、但し条件は在学中ですよ」
「約束ね」
絶対に取るよ。
叶えて欲しい願いが一個だけあるんだ。
“諦めないで”って
俺の願いはそれだけ、だからそれまではちょっとだけでいいから、俺の事見て。
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