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文化祭
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暑さも滲み始めた初夏。
衣替えも済ませて、皆爽やかな様相に変わる頃。
俺はすでに茹だっていた。
「大丈夫ですか?」
「うーあー暑いー……」
「今からそんなことを言っていたら、この夏を乗り切れませんよ」
テーブルに伏した俺にパタパタと下敷きで仰いでくれる哲さんは、俺の暑がりぶりを知っていることもあってか、明らかに呆れ顔で。それでも、今日は休日なのに珍しく部屋にいて、暇を持て余している俺を構ってくれている優しい哲さん。
「週明けから文化祭準備が始まりますけど、美教くんは何か展示とかするのですか?」
「え?文化祭?」
うちの学校は変わっていて、文化祭を秋じゃなくて初夏にやるらしい。どうやら体育祭と文化祭を交互に行うそうで。
去年は体育祭だったという点と、2年から編入してきたという理由で、この学校の文化祭というものを俺は知らなかった。
「クラスの催し物は週明けに決めると思いますけど、文化部に所属している人はそっちがメインで優先されますから。美術部は例年気合い入ってますし、ひとつ位は作品を作らないといけないのではないですか?」
「ええ!?無謀な~……」
「僕が決めたことじゃないですし……天文学部は例年プラネタリウムシアターの作成で大忙しですよ。僕も1年の時に参加しましたけど、かなり時間を注ぎ込んでましたね」
「じゃあ、ひとつ描こうかな……」
「それなら観に行きますね、僕のところも良ければ遊びに来てください。えっと……阿野くん、でしたっけ?一緒にとかなら来やすいのではないですか」
「本当に!?わーい!何描こうかな……絶対行く!あ……哲さん、いる?」
「ふふふ、それなら上映担当時間を当日お伝えしますね」
「はい!!」
暑さで茹だっていたのが嘘のように元気になった俺を見て笑う哲さんが、穏やかな顔で綺麗に笑っているから。俺も嬉しくなって、自然に笑顔になった。
なんだかその時間が嬉しくて、ずっと続けばいい、なんて思ってしまう。
当り前のように此処にあるこの時間もきっと当然なんかじゃなくて、だからこそ一生懸命に掴んで大切にしたい。
それと、そのとき思っていることをちゃんと伝えたい、後悔しないように。
「哲さん」
「なんですか?」
「好きです」
「……ありがとうございます」
ほら、またそうやって困ったさんな顔する。
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