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文化祭
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翌日のクラス会議、中学には飲食の権限がないという制限があるせいで、クラス催し内容が決まらず難航していた。
クラスメートが催しを決めようと、各々に自由に喋ってざわついた教室内、俺は哲さんに見てもらう作品を考える事で頭がいっぱいだった。
何を描こうかな。どうせだったらコンクールに出せるくらいのしっかりしたものを描きたいな。
逆に何か立体にする?うーん……
「よーしくんっ!ご機嫌だねぇ」
「バスケ部は何かやるの?文化祭」
「俺たちは体育館で運動部合同のダ、ン、ス」
「ぶっ、なにそれ~阿野踊れるの?」
「俺たちバスケ部はソーラン節だから結構ワイルドよ~」
「あ、それはかっこよさそう」
「いや~ん、依頼写真いっぱい来ちゃうかも~」
「依頼写真?なにそれ」
くねくねと身体をくねらせておかま口調でふざける阿野は、あ、そっか。とまん丸の目を更に丸くさせると、急に真面目な顔をして所有者が不在なのをいい事に隣りの席に腰かけた。
どうやら“依頼写真”というものは写真部による大人気な催し物らしい。
写真部の部室が展示会場という名の受付所になっていて、そこへ依頼を持ち込むと後日依頼物をこっそり届けてくれるとのこと。
この依頼というのが、“秘密で好きな人や気になる人の写真を写真部が撮って来てくれる”というもの。
しかもこの依頼は拒否権が絶対にないらしく、文化祭の期間中だけは頼まれた相手は断ることができないとのこと。
ここで苦情が出ない理由は、とても健全な写真だ、ということで……。
誰が持っているかわからないという気持ち悪さはあるものの、隠し撮りは一切しないのと、何名様へお届けしますとしっかり写真部が被写体に説明した上で、明るい場所で笑顔の写真を撮ってすぐに終わるから、らしい。
依頼側も誰の写真を頼んだのかが絶対に公表されないという歴代の信頼に加えて、確実性への評価が高く、例年安心して頼める春ヶ峰の一番人気な催し物なのだとか。
「写真部は文化祭中、も~大忙しだからクラスの出し物には参加できないんだよね~」
「そういえば、班長と池ちんは?帰宅部だっけ?」
「え?班長は手芸部で池ちんはその写真部だよ」
池ちんはおいといて……班長、手芸部だったんだ。顔的には理工科学とかそんな感じなのに……。
「あ、今意外って思ったでしょ~これで班長にちょっかい出すとすっごく怒るよ~ちくっちゃお~!ねー班長ー!」
「あ!バカ!阿野!」
俺の制止も聞かずに班長の元へ向かう阿野。この後の恐れ多い仕返しを思い頭を抱えていると、ふっと頭上に影が出来て同時に椅子を引く音が鳴る。
「俺は何も言ってないよ。で、万事解決、じゃない?」
「池ちん……天才?」
そんなことないよーと笑う池ちんはどうやら阿野と入れ替わりになったようで、本来班長と一緒にいた池ちんのポジションには阿野がいて、何でか阿野が班長に襲撃されていたので、そっと見ない振りをした。
「何の話してたの?」
「あ、依頼写真」
「そっか……よっしー、先輩の写真、撮ってあげようか?」
「……!……いいの?」
「今日は否定しないんだね」
「……あ」
やんわりとした会話の流れでつい言ってしまった。これでは俺が哲さんを好きだと言っているようなものだ。
にっこりと静かに微笑む池ちんはやっぱりと言いたげで、何だか気恥ずかしくなって顔に熱が集中した。
違う、違うんだよ、前回は本当にわかってなかったんだ、今は、わかっ……あーもう!
お見通しな視線に耐えきれず机にうつ伏せになると、クスクスと笑って池ちんが俺の頭をポンポンと叩く。
そして小さなメモ帳をそっと置いてこっそりと耳打ちをしてきた。
“先輩の名前を書いて”
その言葉に反射的に起き上がってメモ帳を確認すると、何も書いてないページの下に、ハッキリとは見えないけれど沢山の人の名前が書いてあることがわかる。
本当に人気なんだ、依頼写真。人伝の情報で半信半疑な部分があったが、実際にこうして依頼を目の当たりにすると、人気の程がリアルに伝わってくる。
俺は素直にそこへ“星屋 哲”と記した。
そのメモ帳を覗き込んで確認した池ちんは、小さな声であ、と声を漏らした。
「天文部の人だ。この人すごく頭がいいよね、模試でいつも名前を見かける」
「うん、でもなんかわざと一番取らないようにしてるみたいに感じる」
「一番ってことに、何か嫌悪感とかあるのかもね」
「嫌悪感?一番取るのが嫌だってこと?」
「んーなんとなく。本人と直接お話したことないからわからないけれど。よっしーの言うように、わざと。だとしたら、一番を取りたくない理由が、少なからずあるんじゃないかな」
「ふーん、そっか。なんだろ」
「依頼、承りました」
「あ、うん!……池ちん、ありがとう」
「どういたしまして」
話の途中だったのにすんなりと途切れ、席を立ちあがってメモ帳を口元に添えて立ち去ろうとする池ちんを見上げると、その背後に阿野がいて理解した。池ちんが気を遣ってくれたのだ。
依頼写真は依頼者の情報を完全に保護するというのも本当だったらしい。
2つの感謝を込めると、とんでもないと言いたげに微笑むだけで、言葉を重ねることなく班長の元へ戻っていった。
「何話してたのー?」
「美術部でなにやるかって聞かれた、それより……よくもちくってくれたな」
「それが!ちくろうと思ったらね!手芸の言葉出しただけで俺が怒られた!」
怒られたという割にはカラカラと明るい笑顔で笑い飛ばす様子を見る限り、それすらも楽しんで帰って来たようで、そんな遊びをしている間にクラスでは占いの館なるものが催しものに決まったらしい。
タロット班、手相班、姓名判断班に担当で分かれて、その班ごとに当番も決めることになった。
文化部に所属している生徒は、部活を優先していいとのことだったので、俺は準備メンバーには入らず、当日に手相班で1時間の当番だけ任された。
のに。
その日の放課後、異様に闘志に燃え盛っている部長が部室で吠えていて思わず扉を閉めたら、それに気付いた部長に首根っこを掴まれて部室に引き摺りこまれ、無理やり美術部展示のメインメンバーに抜擢されてしまうという災難が付いて回った。
相変わらず肩を組んできて顔の近い部長を絶妙に避けつつ、こうなってしまったら時間が余計になくなってしまうので自作品は何にしようと、この時本気で頭を悩ませていた。
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