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文化祭
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「美教くん、今日の部活の展示当番は10時から12時までになりました、そっちはどうですか?」
「あ!じゃあ11時から休憩にしてもらう!」
「部活とクラスの担当時間は被っていないのですか?」
「クラスは初めの1時間だけで、その後すぐに部活の展示になるみたい」
「何やるんでしたっけ」
「占い……」
「できるんですか」
「なに!その目なに!本見て勉強したから一応やれるよ!見てあげるから!ほら!手!かして!」
文化祭当日は集合時間がいつもより早いので、少し早目に哲さんを起こしたこともあって、のんびりとした朝食を取っていたらこれですよ。
眠そうな目で疑惑の眼差しを向けてくる哲さん。俺そんなに頭悪くないからね!
手を出すように要求したのはいいけれど、本当に差し出されたらその手を取ることに戸惑う。
ああ、どうしよう。そっと触れた手が、熱い。これは自分の手が熱いんだと思う。どうしよう緊張で変な汗かいてきた。
どうか、どうか、気付かれませんように。
「僕って短命ですか?」
「えーと、えーとね、ううん。生命線は太くて長いし、すごくしっかりしてる。あ、やっぱり頭いいんだ、頭脳線がすっごくはっきりまっすぐ伸びてる」
「長生きなのですか……確かに頭は悪くはないですね」
「そのがっかりした返事はなんです。いいじゃない、長生き。しかもそんな真顔で認めないで、なんか悔しい」
動揺していたのも必死に診断していたらゆっくりと絆されてきたのに、緊張も解けていつもの調子が出てきたのに、触れている手の震えも収まってきたのに!
「どれが頭脳線ですか?美教くんも絶対に長いと思いますよ、勉強できるじゃないですか」
手を取り返して握られた瞬間、頭が真っ白になった。
俺の手を取って、よくわかってないのか指先で俺の目立つ手相線をなぞるのが、くすぐったくて緊張してむずむずする。
「え、あ、う……これ、これ、が、頭脳……線!」
妙に焦ってテンパった俺は、自分の掌にある頭脳線を雑に指先で示して伝えるが、その最後の語尾は明らかにひっくりか
えっていた。もうダメ、緊張マックスすぎて自分がどんな顔してどんな声で喋ってるのかもわからない。
それはやはり気付かれてしまったようで、哲さんはまたお得意の困ったさんな顔をして手を離した。
ああ、やっぱりその顔をする。
妙な気まずさが生まれた空間を崩したのは、妙な空気を作った哲さんで。
「じゃあ、僕の展示当番が終わったらそのまま美教くんの展示会場まで一緒に行きましょうか」
にっこりと微笑む。困ったさんではない、笑顔。これがどんな笑顔なのかわからないのに、やっぱりこの笑顔を向けられると嬉しくて、握った手に力が入って大きく力強く頷いていた。
俺がフィギュアスケート選手だったら、初めは緊張ながらに順調に滑って、途中完全に絶望しかない失敗を犯して立ち直れないくらいのショックを抱いたのに、曲の後半で余裕の4回転ジャンプを決めるくらいには浮き沈んで舞い上がってますよ、わかってますか哲さん。ああ、ちょっとマニアックだったかな、でもその位には振り回されているんだって事を、一心不乱な俺はこの段階で気付けていなかった。
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