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文化祭
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当番を終えてバタバタと3人で哲さんの元へ向かう。なんとも落ち着かない環境にむず痒いのはきっと俺だけなんだと思う。だってさっきから目の前の二人は楽しそうで、よくよく考えてみれば同室だから当り前なんだろうけど。居心地がとても悪い。
「よしくーん、よしくんの部活の当番っていつ?」
「星屋先輩のところ行きたかったから、昼からにしてもらった」
「絵所君は星が好きなんです?」
「あ、はい。殆ど先輩の影響ですけど……」
「ふむふむ、阿野君は興味ないよね」
「はい!全くわからないっす!でもよしくんが行こうって誘ってくれたんで!」
「ええ……楽しみって言ってたじゃん……」
「本当に仲が良いんですね」
「え、そんな「はい!とっても仲良しなんですー!」
三人で会話するってこんなに大変だったっけ。そう思ってしまうくらいに気疲れをしてしまう地獄の時間は異様に長く感じて。何だか扇田先輩の笑顔が刺々しい気がしてしまうからもう俺は終わってる。
漸く辿りついた展示会場はすでに人だかりが出来ていて、意外にも知名度と人気があるらしく順番待ちの整理券まで配られていた。俺たちも先に来た人たちに習ってその券を受け取ろうとしたら、奥の扉が開いてそこから哲さんがひょっこりと顔を出した。
「あ」
「ん?あ、哲君だ」
「手招きしてますよ、星屋先輩」
「行ってみましょうか」
それぞれが思い思いに口にしていた割には初めての協調性をみせて満場一致。すぐにそちらへと向かうと、哲さんは一番見易い席へ案内してくれた。
「え、いいんですか?」
「特別に席を3つ取っておいたので、是非」
しー、と人差し指を口にあてて微笑む哲さんは俺の背中を押して着席を促すから、素直にお礼を言って右側に腰かけた。なんとなく自分が真ん中に座るのは嫌だったので阿野を真ん中にしたのは、勿論さり気無いながらに無意識の嫌煙だと思う。
程なくして暗転した室内はあっという間に淡い光で包まれた。天井を覆うように広がるのはシアターによって映し出された星の数々で、今まで哲さんに教えて貰ったものもあって沈んでいた気分が嘘のように跳ね上がった。
天然の夜空では無い分、ドンと星が降ってくるような……突然うわっと見えてくるような感覚はないけれど、それでも十分すぎる位に星が煌めいている。
オルゴール調の音楽が流れて落ち着いた空気感が室内に充満すると、静かなトーンで哲さんが星の説明を始めた。
「それではご覧ください。あれが、北斗七星です。北斗七星は地球から見ると7つの星が繋がった柄杓の形になっていますが、実は地球からの距離は50~170光年と結構離れており、同じ球面上に並んでいるわけではありません。つまり、遠さというか距離が違うので、空間的に一体の星団ではないのです。しかもこれ、それぞれがバラバラな方向に進んでいるため、数万年後には柄杓型の形に見えなくなることもわかっています。まさに、地球から見て、たまたま今は柄杓型に見えているというだけなのです」
哲さんのゆっくりとした口調な説明は一瞬のどよめきを生んだ。これは此処にいる人が皆しっかりと耳を傾けた証拠で、俺はまるで自分が褒められたかのように嬉しくなっていた。
「それでは今度はあちらにある白鳥座をご覧ください。白鳥座には嘴にあたるところに“アルビレオ”という星があります。これは天空で一番美しい二重星とも言われており、別名“北天の宝石”とも呼ばれています。この二重性星は先ほどの北斗七星とは違って、空間的にも一体で同じ重心点を中心に回っています。因みに、アルビレオは肉眼では1個の星に見えるのですが、望遠鏡で見ると2つにわかれていることがわかります。しかも、それが金色と青紫に鮮やかに輝いているのです。こういったところが星がロマンチックだと言われる所以かもしれませんね。しかもこの二重星の美しさは古来から有名で、かの宮沢賢治も感動して銀河鉄道の夜で登場させています。是非、読んだ際はこの星なのだと思い浮かべてみてください」
所々で聞こえる驚きの声や感嘆の吐息。その全てが哲さんの知識を評価するもので、こんなにも人の心に届く説明をできる哲さんを改めて誇らしく思った。
その後も10分位に渡って渾身の説明が行われ、ゆっくりと星が消えて明かりが戻ってきた。眩しい光にそれまでの時間が夢物語かのように本当に幻想的だった。
心にたっぷりと染み込んだ星の瞬き煌めきがじわりじわりと浸食していく感覚は、画用紙にじわりと染み混んでいく水彩と似ている。
あの瞬きは手に入らなくて、煌めきはそばにあるように見えるのに決して掴むことができない。だから、焦がれるのだろうか。そんな事を考え耽っていたら、いつの間にか隣りに哲さんが腰かけていて、阿野は扇田先輩に拉致られたみたいで左隣は2人とも忽然と姿を消していた。
「どうでした?」
「……すごく、染みました」
「面白い表現ですね」
「言葉がそれ以外見当たらないです」
「褒めて貰えたってことでいいのですよね、美教くんの作品観に行きましょうか」
「あ、そうですね」
「いたいたーこんにちは、写真部ですー依頼写真お願いできますか?」
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