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文化祭
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池ちんが折角うまくやってくれたのを水の泡にしないように、なるべく当たり障りのない話をして2人で俺の展示場へ向かった。
ちょうどお昼時でお互いにお腹が空いていたので、辿りつくまでの途中で高校生のクラス催しのフランクや焼きそばなどの飲食を買い食いしてお昼を済ませた。
哲さんは案外顔が広いみたいで大盛りサービスとかしてもらっていて、俺の分も上手にサービスして貰えるように交渉してくれた。
食べ終わったばかりだけどおやつにと、りんごあめを食べつつ目的地へ到着すると、その音を聞きつけてすぐさま部長が飛び出て来た。
「絵所!おっそーい!お前の作品メインに入ってるんだから早く横に立て!って、おお星屋も見に来てくれたのか!ありがとな!感想アンケも書いてってくれ!」
マシンガントークで捲し立てる部長は嵐の如く休憩だと叫んで走り去っていった。よっぽどお腹すいてたんですね、のんきにご飯楽しんできてすみません……。
心の中で部長の背中に謝罪を投げてモゴモゴとりんご飴を食べきってから哲さんを中へと招き入れる。美術館を気取って仕切ってある室内に飾られた部員メンバーの作品を一緒に観て回り、最終グループとなるメイン5作品の並ぶ一番大きなスペースに入ると哲さんは一番大きな作品の前で足を止めた。
「……綺麗」
哲さんが魅入っているのは両手を広げたくらいに大きな作品で、柔らかな色合いで描かれた2匹の猫の絵。
「ありがとうございます」
「どうやったらこんなに生きているみたいに描けるのですか」
「んー、実際触ってみたりしました」
「ああ……だから最近腕とかひっかき傷だらけだったのですね」
「気付いてました?」
「君は常に薄着ですから隠れてませんよ」
口調はふざけているのに、哲さんは視線を絵から外さない。俺が軽口なのは何だか照れくさいのと目の前で褒められて照れくさいからで、哲さんが足を止めたのも時間をかけて見ているのも俺が描いたこの作品だけだったから。それだけで天にも舞い上がる想いなのを伝えてもいいですか?
「美教君」
「はい?」
「もう一度、僕のこと描いてくれませんか?卒業までに」
「……いいんですか?いいなら喜んで描きますけど」
「観たくなって、もう一度」
「これコンクールに出すつもりで描いたので時間に多少余裕ありますから、間に合わせます」
「楽しみにしてますね」
やっと振り返った哲さんは泣きそうな顔で微笑んだ、綺麗な、綺麗な顔で微笑んだ。
何を思って涙が溢れそうなんですか、その質問は飲み込んで腹の中に落ちた。きっと答えは困ったさんに紛らわされてしまうから。
「アンケってなんですか」
「ああっとー!忘れてた!一番心に残った作品を最後に描いてもらってて、次回に活かすために感想とかも貰ってます。っと、と、あった、これにお願いします。無記名で大丈夫ですからね」
哲さんは快く了承してくれて、大して時間もかからずにアンケを書いてくれたので専用ボックスに受け取った。俺はこの後は終わりまでずっと当番なのでそこで別れた。
翌日、アンケの結果が部長から各自総評を頂いたものを手渡された。
俺は2番だったようで、ありがたいことに沢山の感想を頂いてそのひとつひとつをじっくりと読んでいると、哲さんの文字らしきものを見つけた。
そこには、“感動しました。シリウスに惚れ直しました”とだけ書かれていた。
哲さん独特な星の表現はちょっと理解できなかったけれどそこは後で星の観測の時に教えて貰うとして、哲さんは俺のどの絵に惚れ込んでくれていたのだろう。そう思うと身が震えるほどに嬉しくて堪らなくてそのアンケ用紙を胸に抱いた。
哲さんを好きだというこの溢れんばかりの想いを伝えたい、伝えても伝えても伝えきれないこの想いを盛大に何度でも伝えたい。大好きです、大好きです、哲さん!
数日後には池ちんに2ショット写真を本当に貰えて、そこには楽しそうに笑う俺と哲さんがプロ並みに綺麗に写っていていて感動した。
初めての文化祭は宝物を沢山手に入れることが出来た。思い出に写真に、更に深まった気持ち。
哲さんの展示場で見た星のようにキラキラ綺麗に瞬く星のように俺の心で煌めている。
しゃらんら、しゃらら。
両手に零れてしまいそうなほどの星の数々、ひとつも零したくなくて大切に大切に仕舞い込んだ。
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