アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
嫉妬と優しさ、優しさと嫉妬
-
振り向いても誰もいない廊下。
哲さんは逃げた俺を追いかけてはくれない。俺ががむしゃらに追いかけないと、手の届かないところにするりといなくなってしまう。
「よしくん、いたーもー昼休み終わっちゃったよ?よしくん聞いて……」
背後から聞こえたのは阿野の声だ。きっとなかなか帰ってこない俺を心配して授業をさぼって迎えにきてくれたんだろう。
中等部は規則に厳しいから、授業をさぼってしまうと後でどれだけ大目玉をくらうかわかっているのになんて馬鹿な友人なんだろう。
振り返ることなく、返事もすることなく、高等部と中等部を繋ぐ廊下の先をじっと無言で見つめて立ち尽くす俺の視界にそっとブラインドがおりた。
阿野の手が、俺の目元を覆っているのだ。
「よしくん、泣いていいよ。見てないから」
何も見えなくなった瞬間、どうしてだろう。何が悲しいのか苦しいのかわからなくなった。
「……うっ、ううううう、ひっく、うぁ……」
ひたすらに我慢していた切羽詰まったものが、一気に溢れてきて棒立ちのまま大泣きした。
遠慮なく盛大に泣きだした俺の声があまりに大きかったのか廊下に大層響いてしまっていたようで、阿野に引き摺られるようにすぐ近くの視聴覚室へと連行さた。その間も阿野は泣きわめく俺の目元を覆ってくれていて。
引き摺りこまれた場所なんてどうでもいい、俺はただ赤子のように泣き喚き、崩れ落ちる様になだれ込んだ部屋でなされるがままに阿野の上に思い切り乗っかってしまったとき、阿野が足で扉を閉めたこともわからないくらいに俺の頭は真っ白で、悲しいとか苦しいとかそういった感情で支配されていた。
背凭れにしようと壁に向かってずりずりと後退する阿野がたどり着くと、その距離分を思い切り引き寄せられる。そして、阿野の胸の中にすっぽりと収められていた。俺の友人はあくまで泣き顔は見ないからね、というスタイルを貫こうとするとこうなるらしい。
俺の肩に顎を乗せて、ただ黙って俺を抱きしめる阿野。
まるで、さっきの哲さんたちみたいだ。とか思い出すとまた意味もなく泣けてきて無限のループを繰り返していた。
色と色を足して重ね合わせて混じり合わせる。
ぐるぐる、ぐるぐる、円を描いて別の色にする。
そこに黒というものを足すと、もう何を足しても黒でしかいられない。
白、白だ、白を足したい。少しでも顔を上げられる色にしたいんだ。
だけど、どうしてだろう。白を思い出そうとすると、泣いていた扇田先輩を思い出す。
だったら、黒がいい。深い闇夜は黒ではないけれど、そっちの方がよっぽど近い。そこに光を入れよう、黄色で光を射そう。
その黄色は、俺だ。白よりもはっきりと光を描けるのは黄色だ、きっとそうだ。強い発色でここにいるって示そう。
「阿野、ありがとう」
「終わったー?すっきり?」
「うん、すっきりはしてないけど、泣いてる場合じゃないかもって思ったら涙どっかいった」
「そっか、じゃあジュース買いにいこ」
「怒られるよ?」
「だってーどうせもう怒られるじゃん?だったらサボり満喫しちゃおうよ~理由っていう作戦も練らなくちゃ、ね?」
このジュース。阿野が飲みたいだけだろ、とか思ってたのだけど、どうやら阿野の気遣いだったみたいで。
何故か2本買っている阿野はウルトラマーン!とかふざけてパックジュースを目に当てていて、何それにてねーと笑う俺に2本差し出してきた。
「ヨーグルトジュース好きじゃないけど?」
「間違えちゃったんだもん、飲まなくてもいいからこれでよしくんもウルトラマンやって見せて」
怪訝に思いながらもそこは取りあえずノリでやってみせると、熱をもっていた目にひんやりと心地よかった。ああ、そういうことか。とそのまま止まっている俺に阿野は何も言わなかったし、これが正解なんだと思う。
「大変!ウルトラマン!後3分でじゅわっちしなくちゃ!」
「えーもう授業終わり~?次なんだっけ」
「んとねー、あ。今日藤崎先生の美術じゃなかったっけ?」
「あ、そうだ!絶対出たい!行こう!」
「え、ちょっと~待ってよ~よしくん置いてかないで~」
教室に帰ろうと競争をするように廊下を走っていたことで、通りすがりの先生に怒られて足止めをくらっている最中に担任に見つかってしまい、その場と放課後2人揃ってみっちり大目玉をくらったけれど、授業の途中で堂々と抜け出した阿野の方が怒られていて、俺よりも大きな阿野がしゅんと項垂れて俺と同じ目線までさがってきているのがおかしくて何だか怒られた気がしなかった。
いつもそばで手を差し伸べてくれるこの友人に、俺は何かしてやれているんだろうか。
扇田先輩と哲さんの関係性も俺たちと同じようなものなのだろうか。
わからないことがいっぱいです、先生。
先生はこのことを質問したら教えてくれますか。
傷ついても、めげそうになっても、一方的な押し付けだったとしても。
俺はやっぱり哲さんが好きで、好きで、好きで。
その気持ちはしっかり確実に育って根強いものになっています。
ねぇ、哲さん。好きです。
俺は、そんなことを想いながら後ろに手を組んで先生のお叱りを受けていた
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
41 / 65