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ゆめと夢とキス
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一日の出来事で一番印象的だったことが夢で現れると聞いたことがある。
それならば、俺の夢は毎日哲さん色で染まっているはずなのに。
決まって先輩は夢に出てきてくれないから。
その人の写真を枕に入れると夢でその人と会えると聞いたことがある。
他力本願に夢に出てきてくださいと願った俺は枕の下にこっそりと哲さんの写真を忍び込ませた。
「美教……」
……ん?
真っ暗な部屋の中、間接照明だけが辺りをぽっかり灯す空間。
うん、よくは見えないけれど空間に覚えはある。多分自分の部屋だ……
ギシ……と鈍い音と共に沈むベッドに重心をかけてきたのは朧げに揺れる……哲さん。
「先輩……さ……とる、さん……」
ああ、夢に出てきてくれたんですね。折角の夢だから、何処かに行ってしまわないで。
今すぐにでもふっと消えてしまいそうな貴方を捕まえたくて、手を伸ばすと。
その手を取ってぎゅうと握り締めてくれた。温もりがちゃんと伝わってくる……なんて、なんて。
なんて幸せなゆめなんだろう。
その温もりを手放したくなくて失いたくなくて、鈍い指先で確かめるように捕らえていると、手の甲にそっと触れた柔らかさに気付くと同時にそこから足先までビリビリと刺激が走った。
哲さんが俺の手にキスをしてくれた。
「さと、る……さん、すき……すき……」
うわ言のようにしか出ない声を絞り出して、喋りにくい口を必死に動かして。哲さんの手に縋り付くように擦り寄ると、ふわりと大きな手が頭を包んで穏やかに撫でてくれた。
これは……ゆめ?げんじつ?
どっちでもいい。
朧げに揺れる哲さんはいつもの困ったさんじゃなくて、とてもとても優しい笑顔だから。
大きな大きな手は温かさを帯びていたから。
すっと目が覚めると、哲さんは枕元にいないし記憶もそこまでしかなかった。
それでも。
幸せな気持ちが胸にひたひたに染みていて、両手を胸にあててじんわりとそらに浸る。
ふと思い出したように左手の甲を頭上へ翳して見つめると、どうにもニヤけが止まらない。
哲さんが、哲さんが、キスをしてくれた。
ゆめの中だけど、キスをしてくれた。
少しだけ頭を起こして誰もいるはずないけど確認をして、布団を被ってこっそりと同じ場所に唇をあてた。
夢だけど、ゆめだから。もしかしたら忘れちゃうかもしれないから、忘れちゃう前に間接キスだけは許してくださいね、哲さん。
ふふふっと肩を揺らして満足感に浸っていると、カタン、と音がした気がして飛び上がった。
どうやら気の所為だったらしくて慌てて半身を起こした自分が急に気恥ずかしくなってきて、枕をぎゅうと抱きしめる。
ああ、もう。何してるの自分。
少し落ち着いて冷静になったところで不思議なことがひとつ。
枕の下に夕べ入れたはずの哲さんの写真がない。
どうやら、ゆめで逢えると写真は想いとなって消えてしまうようだ。
写真なんて先輩に困ったさんな顔をさせる位しつこく撮ってるし、今回入れたやつみたいに隠し撮りもいっぱいあるからいくらでもゆめにあげる。
それに携帯のフォルダから現像したやつだから何枚でも出せるから大丈夫、哲さん専用のアルバムもあるからね。
一番大切な、池ちんが撮ってくれたツーショットの写真は1枚しかないから、あれ以外ならいくらでもゆめにあげる。
ああ、それにしても素敵な夢だった。
まだちょっと時間も早いし、今日は気合いたっぷりに朝ごはんを用意しよう。
ゆめの中の哲さんとはいえ、好き放題な俺の妄想に付き合わせちゃった罪滅ぼしもかねて。きっと困ったさんになっちゃうから、これは内緒の話。
本日もたっくさん愛を込めて、一日俺をお届けしますね、さとるさん!
だから、少しだけ、夢に少しだけ出て来ちゃう位でいいから。
俺のこと見てください。
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