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信頼と嘘と
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どうしてそうなったのか、一瞬で記憶が飛んでしまうくらいに突然の事で。
哲さんのひとつに結わいた髪が鼻をくすぐって理解する、哲さんが抱きしめてくれている。肩に口元が埋まり鼻で呼吸をするたびに哲さんの匂いに包まれる、心臓が、煩い。言葉が、出てこない。
「ありがとう、美教くん」
少し籠った声で確かにそう聞こえた。
耳が塞がっていたけど、確かにそう言った。どうして言い直すんですか、さっきと今で何が違うんですか、わからないです、わからないです。
視界が左右に小刻みに揺れてもうよく見えないし、自分の心臓に飲み込まれてしまっているんじゃないかってくらいに全身に物凄い勢いで血が巡っている気がする。
その瞬間。
耳に色々な音が聞こえてくると思ったら、頬に暖かく柔らかいものが触れた。
時が止まったようだった。
さっきまで忙しなく煩いくらいだった心臓が脈を打つ音も聞こえない。死んでしまったのかと錯覚するくらい、何が起こったのかわからなかった。
まるで無の空間のようだ。
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