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信頼と嘘と
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空間に音が、ない。
生きているのかな、もしかして心臓止まって死んでしまったかな。
呼吸も忘れた俺の鼓膜は卑しいほどに正常だった。
「ごめんね」
ああ、本当に殺すつもりなのかもしれない。
いつものお決まりのセリフがちゃんとついてきた。
いつものありがとうと、ごめんねだったんですね。
いつもの何も変わらない、いつものやつだったんですね。
それなら、いつもの通りにしてください。
「間違えて苗字で呼んでしまったペナルティ、さっきので5回目ですよね」
そう言って俺の頬をパーカーの裾で擦る動作をただ茫然としてされるがままになるしかなかった。
ああ、ペナルティ。
自分で決めた、罰ゲーム。
哲さんに近付きたくて考えた自分勝手なゲーム、ルール。
それがこんなにも自分を痛めつけるなんて思ってなかった。
今日も帰りが遅くなるので先に寝ていてくださいね、と言い残して哲さんは部屋を出て行った。完成しきれていない絵と俺を残して。
震えたままの手を頬に添えるとじんじんと傷んだ。擦られた僅かな痛みじゃない、これは心が痛いんだ。
「うっ、ううっ……あう……」
溢れて出てきたものも熱くて、俯いて眉間に皺を寄せるとボタボタと音を立ててズボンを握った拳の上に落ちた。
さっきは我慢出来たけど、もういなくなっちゃったしいいよね。
哲さん。拒絶するなら、もっとちゃんと拒絶してください。それでも嫌いになんてなれないのだから、それだってわかっているんでしょう?
なんて馬鹿なルールを作ったんだろう、子供過ぎる自分に心底嫌気がさした。
俺には貴方が前進で、貴方を見失ったらきっと前も後ろも右も左も、それこそ上も下もなくなってしまう。
俺の言葉は嘘でもうわ言でもないので信じて欲しい。
ただそれだけの想いが、こんなにも苦しくて辛くて痛いなんて知らなかった。信じてもらうことがこんなにも大変だなんて思ってもみなかった。
それでもやめられないし、消えてくれないんです。
大人になればこんなことにならないのかな、間違えることもないのかな。だとしたら、早く大人になりたい。
胸が痛くて痛くてヒリヒリして眠れなかったから知っている。哲さんはこの日朝方に静かに帰って来て、きっと一睡もせずに寝たふりをして目が思い切り腫れた俺に何事もなかったかのように起こされたことを。
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