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手から滑り落ちるのは時間
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哲さんがいない。
死んだとか根性の別れとかじゃないのに、ここに哲さんがいないだけでぐっと息が詰まる。
ここで星を観察する哲さんはもういなくて、俺の気配に気付いて笑いかけてくれる哲さんもいなくて、俺が好きだと言うと困ったように眉を下げる哲さんが……いない。
確か、哲さんはここから電車で2時間くらいの距離にある国立大学へ進学希望だったはず。
頭が良いから評定も余裕だったはずだし、確実にそこに受験して合格したことも知ってるのに。
俺にも間違いなくそう言ってたはずなのに。
蓋を開けてみれば哲さんはどこにもいなかった。
卒業式を終えて寮から出る際に新しく一人暮らしを始めるところの住所を教えて欲しいと伝えたら「のんびりしていて決め損ねたので一回実家に仮住まいしてから決めます」と哲さんは言った。
じゃあ、決まったら教えてね。としつこく食い下がったら、あの得意な困ったさんの顔をした。
だから、また困ったさんは俺の我儘を受け入れてくれると思ってたんだ。
だけど。
哲さんは外国へ行ってしまった。
星の勉強をしに……なんだっけ、そう、天文学を学びにイギリスの有名な大学へ留学したのだと哲さんの元担任から聞き出した。
哲さんが卒業してから1年。
我慢したんです、高校2年になったら生徒会長になって、先輩たちがいなくなったことで人数が足りなくて廃部になってしまった天文部を復活させたら会いに行こうって。
なのに、どうして居なくなったんですか。これじゃ俺は何を頑張ったらいいかわからないじゃないですか……
哲さん、どうしてですか。
俺の事嫌いになりましたか。
やっぱりゲイだから受け入れられなかった?
気持ち悪かったのかな。
ううん、哲さんだってゲイだもの、それはないよね。
ああ……困ったさんは優しいから我慢してくれてたんだ。
哲さん、先輩、先輩……哲さん。
どうしたらいいですか。
床に寝転がってお気に入りの絵本を顔に被せて唸っていたときだった。
「あ、いたいた」
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