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手から滑り落ちるのは時間
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「どこの鍵なのこれ……」
扇田先輩が帰った後、再びひとりになってしまった室内でまた寝転がって天井を仰ぐ。
今度は貰った鍵をぶら下げて。
本当に検討もつかない。でも、鍵ということは恐らく寮に違いない。俺はすぐに起き上がって寮へと戻った。
部屋に入り、周辺に目をくれてみるが、これといって鍵穴はない。むしろ哲さんの私物はもう俺の部屋にしかないからそれだろうか。
そのとき、ふと頭に過ったのが机だった。哲さんが運べないからと置いて行ったアンティーク調の机、よく見れば模様もそれと似ている。あの机はそのまま使わせて貰っているけれど、引き出しが鍵がかかっていてずっと開かなかったんだ。
急いで自室へと向かい机の前に立つと、やっぱり似ている。緊張で手が震えるのもこの際お構いなしだ。そっと鍵穴に鍵を差し込むと、カチャリ。と、重たい音がした。
以前たまたま開いていたときは此処に文具が入っていた、だから特に開ける必要もないかと思っていたのだけれど、今は何が入っているんだろう。手紙を1枚置いて行く、とか気障な事でもしてくれたのだろうか。
しかしその予想は見事なまでにしっかりと外れて、そこにあったのは一冊の分厚い本のみだった。
パラパラと広げた本には見たことのある字が細かく丁寧に連なっていて、その字が哲さんのものだということはすぐに分かった。
多分3年日記というもで、1ページに3つ枠があって毎日横に書いていくと年間で同じ日を見れるもの。高校生になったときから書き始めたようで、4月1日からきっちり3年間記してあった。
どうしてこれを今ここで見ることになっているのかが理解できなかったけれど、こうして手がかりのない今だからこそ、先輩がここに居てくれているんだと、まだ俺と繋がっていてくれているんだと、そう思えて嬉しかった。
「哲さん、読ませて貰うね」
誰に聞こえるでもなく、ポツリと呟いたのは細やかな了承を求める心根。
哲さんが3年間どう生きてきたのか、どう思って生活してきたのかを俺は間接的に触れることとなった。
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