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CAGE5:日常に潜む影1
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洋side
キッチンから聞こえてくる鼻唄はとても機嫌が良さそうだ。
買い出しを終えて、帰宅してから宣言通りひたすらに卵を割らされていた俺は、ついさっきようやく解放された。
ソファーからキッチンを覗けば楽しそうに料理をしている様子が見える。
人は生きるほど何かを失っていくのだと、そう考えていた。
でも最近は案外そんな事はないと思える。
「倉橋さん、出来ましたよ。運ぶの手伝ってください。」
食欲をそそられる香りが鼻を擽る頃、立花の声で俺はソファーから立ち上がる。
言われるがままダイニングテーブルへと料理を運んでいくが……二人分にしては多すぎるぐらいの量だ。
全てを運び終えて互いに椅子へと腰掛ける。
正面に座る立花は達成感に満ち溢れた顔をしていた。
「このビーフシチューは自信作です。」
「………さすがに多すぎないか?」
「そうですか?」
ビーフシチューを初め、ローストチキン、サラダ、ポテト、カプレーゼ、ピラフ、等な様々な料理が並べられている。
ちなみに俺が割った卵はオムレツになったらしい。
「残したら明日に回しましょう。あ、ケーキもあるのでその分のお腹は空けといてくださいね。ケーキは日持ちしないので。」
甘いもの好きの立花はケーキが余程楽しみなようだ。
あまり甘いものが得意じゃない身としてはこの料理
で腹を満たしたい所だが、一緒に楽しみたいようなので言われた通り腹は空けておこう。
自信作だと言うビーフシチューに手をつける。
程よく煮込まれた肉が口の中で溶けるように消えていった。
「どうですか?」
「…………旨い。」
たった一言で不安そうにしていた表情がパッと明るくなる。
「よかった。」
「……そんなに心配しなくてもアンタの料理は全部旨い。」
「そ、そうですか…?でもやっぱり修行中の身としては反応が気になると言いますか…」
「……料理上手な奥さんが貰えて嬉しいよ。」
「なっ……ぼ、僕は男です!け、結婚だってしてませんし……と言うかそんな台詞何処で覚えてくるんですか!」
茹で蛸のように真っ赤になりながら捲し立ててくる立花に苦笑した。
「…この前読んだ本に書いてあった。」
「そうやって僕をからかうのは止めてください!」
「…ふっ、悪かった。でも思ってもないことは言わない。」
「うっ……もう!またそうやって……」
立花が俺の言葉一つで色々な表情を見せる。
それを見ると自然と頬が緩んでいくのが分かる。
ああ、本当に
「……立花、」
「何ですか……?」
「ーー好きだ。」
心からそう思える。
失ったものは取り戻せないけれど、それにも負けない確かな存在。
「……僕だって大好きです……。」
「……ふっ、知ってる。」
俺はもう一度、手に入れた。生きる、希望を。
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