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CAGE5:日常に潜む影22
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大丈夫、もう逃げないと決めたから。
「誉められたものじゃなくても僕が生きてきた証しに違いはありません。紅くんが知った過去も、今目の前にいる僕の一部なんです。だから謝らないでください。」
ね?と問うように首を傾げれば、紅くんは小さく頷いた。
「ありがとうございます。立花さんは僕が思っていたよりずっと強い人なんですね。」
「そんな事はないですが……でもそうですね、こうやって前を向いて歩けているのは、洋さんが居てくれるからです。」
「倉橋さん、ですか?」
紅くんは再びマグカップを手にして、紅茶を口にする。
「そうです。あの人がいるから今僕は過去を受け入れられる。僕の支えです。紅くんにとっての蒼さんも同じではないですか?」
「蒼兄さん……」
「……どうしました?」
目に見えて沈んでしまった紅くんの様子。
何かいけないことを言ってしまったんだろうか…。
「いえ、何でもないです。ただ、僕達は支え合っていると言うよりは……そうですね、依存しているんだと思います。」
マグカップを持つ手に微かに力が込められたのは見間違いではないだろう。
「蒼兄さんが居るから僕が居て、僕が居るから蒼兄さんが居る。蒼兄さんが居ないと僕は生きていけない。生きている意味がない。」
さっきまで子供のように可愛らしかった表情が途端に冷たく険しいものへと変わる。
あまりの変貌ぶりにゾクッと寒気が背中を駆けた。
「例え周りから依存だと、異常だと後ろ指を差されても僕から兄さんを奪うことは許さない。」
誰に向けられたのかも分からない言葉、その後に浮かべられた笑みは、酷く怖かった。
一体どれ程の現実を見てきたらここまで冷めた笑みを見せられるのだろうか…。
「貴方は一体………」
「なーんて、ちょっと暗くなっちゃいましたね。」
言い掛けた僕の言葉を遮って、紅くんはまた子供のような笑顔を見せる。
……これ以上は踏み込むなって事なんでしょうね。
「あの、この紅茶すごく美味しいので淹れ方とか教えてもらえますか?僕も蒼兄さんに飲ませてあげたくて…」
不思議なほどに悪意を感じない。
まるで別人だ。
「立花さん……?もしかしてダメですか……?」
「あ、いいえ。もちろん大丈夫ですよ。」
どっちが本当の紅くんなのか………いや、きっとどっちも本当なのでしょうね。
僕には知る由もないけれど、純粋な心は忘れずそれでも辛い過去を生き抜かなければならなかったとすれば……。
「宜しければクッキーも焼きませんか?この紅茶によく合うんですよ。」
「はい!ぜひ!」
きっと僕には何も出来ないのだ。
だからせめて少しでも多く笑っていてほしいと、そう願うだけ。
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