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どいつもこいつもクソッタレだ。
(アルコールは良い。何もかんも忘れさせてくれる。)
十二月上旬。空気が水の如く冷たくなってきた頃。とある晩に一冬(いちふゆ)は、いい気分になって帰路である家に向かっていた。…酔の回った千鳥足では長距離は厳しかろうと、近道である市民公園を突っ切っている最中だ。
(…失恋の痛みとかも、多分。酒が忘れさせてくれる、だろ。)
市民公園はしんとしていた。真昼間にこの辺を通りかかると、子供や男女の談笑が聞こえてきて、足で稼ぐと言われる営業の一冬にとって、彼らののんきな笑い声は癪に障る以外の何者でもない。
(こっちが齷齪働いている時に、友達とうふふあはは笑いやがって。舐めてんのか。)
一冬はふと立ち止まり、ざっと天を仰ぐ。彼の唇が、薄く開かれていく。
「仕事、か…。」
一冬は今年で二十九歳。170前後の背丈に、ウェーブがついた黒髪。双眸は鋭く、やや凛々しい顔立ちをしている。着ているのは、紺のスーツに薄色のロングコート。二十九歳ともなれば、営業としても中堅の位置になってくる。後輩だって出来たし、責任だって重くなる。
「課長はガーガーうるさいし、部下は不始末を仕出かした上にちょっと小突いただけで、情けなくピーピー泣きやがる。」
酔っているせいだろう。思考が全部口から出ていく。
「板挟みになるこっちの身にもなってみろってんだよ。叱って泣いたら『会社に来なくなっては困る』、不始末を起こせば『ちゃんと厳しくしているのか』??」
公園は静かなものだ。一冬は世界に知らんぷりされたような気がして、更に声を荒げる。
「オレはなぁっ!!頑張ってんだよ!!愛想笑いで顔面の筋肉は引き攣るは、足は鉛か棒で毎晩ヘイコラ言ってんのに、何でいい相手が一人もやって来ねぇんだよ!!」
神様は不平等だなぁ、社会は不適切だわな、言いたい放題喚く。
「オレをきちんと評価してるんだったら、プレゼントの一つや二つ寄越せってんだよ!!」
舌打ちしながら、五メートル間隔に置かれている外灯の傍を通った…時だった。
「…おにいさん。」
傍らで声がした。何だ、と思って一冬が振り向くと、視線の先には木製のベンチが一脚あり、そこには一枚の…キャラメルブラウンのコートが蠢いていた。
ひっ、と息をのみかけて…一冬は再認識する。コートが動いているのではない。コートの中にすっぽりと収まった…ベンチに横たわった誰かが口をきいただけの話だ。
「ぼくを買ってくださいませんか、おにいさん。」
随分、奇妙な光景だった。キャラメルブラウンの衣服から覗く四肢はあまりに色が白く、前はボタン一つ止められていなかった。襟から覗く中見もまた、肌色だ。
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