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「おい、トクメイ。さっそく使ってやるから、喜べ。そこのキッチンにあるものを使って、飯を作れ。」
「食事…ですか。」
「ああ、飯だ。焼き飯でも麺モノでもいいから、何か飯作れ。」
はぁ、と答えたトクメイは、ぶっちゃけ拍子抜けしていた。どんな目にあってもかまわないと抜かした手前、無茶苦茶な命令をされるんじゃないかと気が気でなかったからだ。
「オレは今から、風呂に入る。…出てきた後に飯を食うからな。それまでに準備しろ。」
「はっ、はい。」
一冬の足音が段々と遠ざかっていくのを聞きながら、トクメイはコートの腕まくりを始める。野菜の残量や冷蔵庫の中見を物色しながら、トクメイの頭は数ヶ月前の出来事を思い出していた…。
トクメイは、今年で二十三。大学を卒業し、就活でどうにかこぎ着けた職場に無事就職を果たした。
職場は貸ビルの一角。小規模なオフィスの一席が、トクメイに与えられた。会社の事務についたトクメイは最初こそ息を巻いて頑張っていたが、段々とやる気が空回りしているのに気づきだす。
『××君、これは一体何だね。』
『××ったら、またミスしたんだって。』
『AKケミカルの担当さん、君のミスでまぁた迷惑かけちゃったじゃない。』
『これからが不安ね~…。』
しっかりしなくては、とトクメイが躍起になって努めるも、指の股から細かな砂が流れ落ちていくかの如く。失敗は続いていく。
『××はドジだなぁ~。』
『もう~、何度目だと思っているの??』
『俺だったら、辛くてやめたくなるレベルだよ。』
男性社員はトクメイを見ると、肩を叩いてくる。女性社員は、時折やって来た小さい子供にやるようにお菓子を手渡してくる。…誰もが自分を哀れんでいる、トクメイにはそう思えて仕方が無かった。
オフィスの皆が、トクメイを笑った。トクメイは徐々に、仕事に行く時間が遅くなっていった。
ミスを重ねてしたら、他の社員がやるはずの簡単な雑務しか回ってこなくなった。自分は何も出来ないと皆に思われたんだと、両目に涙が滲んだ。
挨拶は、欠かさずした。人間関係にだって神経を尖らせた。注意されると、お腹がつきんと痛んだ。頑張って、毎日会社に行った。
努力していたら、再び事務としての仕事が巡ってきた。矢先にまたニアミスをした。
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