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苛々したのか、一冬の指先が相手の鼻を摘まむ。
「だって、営業って人と話をする仕事じゃないですか。」
「…??何言っているんだ。オレとお前だって、今話をしているんじゃねぇか。」
そ、そうじゃなくて、とトクメイは両手を横にブンブン振って否定する。
「事情によっては、全然知らない相手と交渉ってなるじゃないですか。」
「まぁ、稀少なケースだとは思うけどな。」
すごいなぁ、とトクメイは連呼する。
「…僕は人見知りするところがありますし、誰とでも喋られるいちふ…ご主人様は凄いと思います。」
ご主人様、と言う度にもじもじしてしまうトクメイだった。
「別に、凄かねぇよ。人に会って愛想よくヘラヘラと笑って、おべっかやら接待やらをして、相手をいい気にさせるだけのお仕事だ。」
気づくとトクメイは、両手を拳にして力説していた。
「笑顔でいるのだって、キツいじゃないですかっ!!」
「…。」
一冬は急に真顔になると、ふっと囁く。
「…その言葉、そっくりそのまま、お前に返す。」
「へ??」
目を点にしている相手を見かねてか、主は声をかける。
「…トクメイ。」
「はい、何でしょう。」
小首を傾げるトクメイに、主は意地悪くニヤリと笑う。
「ご主人様の、凄いですねっつって??」
トクメイは間髪入れずに復唱する。
「ご主人様の(営業をしているところ)、凄いですねっ!!」
目をキラキラさせて答える相手に、一冬は静かに下唇を噛み締める。
「お前の思考回路、スッケスケ…。あ~、もういいわ。飯に戻る。」
「あれ??…もう食べられたんじゃ。」
「便所のために抜けてきただけだよ、バーカッ!!」
悪態をついて、一冬はダイニングへと引き返していく。
主の後ろ姿を見送ったトクメイは、使い古された革靴に目を戻してしみじみと呟く。
「本当に…頑張って歩いて、契約とっているんだろうなぁ。」
現在は冬だというのに、トクメイの脳裏には、ジャケットを片腕に巻いて汗だくになりながら夏の道を行く男の姿が浮かんでいた…。
数分後。玄関。身支度の整った男を前に、トクメイは直立不動の状態で緊張していた。
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