アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
21
-
一冬に指摘されて、同居人は一瞬だけ抵抗するのを止めた。瞬間、外にぽいっと放り出される。
パタン、と閉まった扉からくぐもった声が聞こえてくる。
「『笑顔でいるのだって、キツい』…。そう言ったのは、お前じゃねぇのかよ。」
トクメイは、心臓が止まるかと思うくらい、驚いていた。
「怒鳴り散らして、お前を落胆させたくなくて、みんな頑張って笑顔でいたんじゃないのか。」
「でも、ミスが連続したら簡単な雑務ばかり押し付けられて…。」
「疲れが溜まっているからって、気をきかせて楽な業務ばっか回してくれたんだろ。」
どくどく、心臓が嫌な音を発する。
「だけど、上司は『君は、またやってしまったなぁ~…。』って言っていた…。」
ドア越しに鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
「オレだったら、鬼の形相で凄んでやるよ。『何度言ってもわかんねぇな、お前。何しに会社に来てんだよ』ってな。」
「…ぜ、んぶ。」
トクメイは扉の正面に向き直ると、ぺたんと床に崩れ落ちていく。
「ぼく、の…誤解??」
バカにされた。嘲笑われた。みんなの前でコケにされている。
トクメイの知らないところで、周りの社員は気を使っていたなんて思いもしなかった。
顔を上げる。聳えるドアは、何だか立派に思え、ノックするのすら躊躇われた。
「…帰れ。」
一冬の声がした。…憔悴しきっている反面、無理して出した優しい声。
「…お前、自分の居場所に帰れよ。」
「ごしゅ…。」
「だから、何回も言わせるなよ。…オレは、お前の主じゃねぇ。お前はお前のもんだし、オレはオレのものでしかねぇよ。」
トクメイは、震える指先をドアに向かって伸ばす。ノックしたらまた邪険に追い払われる気がして、力なく引っ掻く。
かり、かりかりかり…。
「い、一冬さん…。」
かり、かりかりかりかり…。
「ねぇ、一冬さん。」
場違いとわかっていながら、トクメイは思い出す。初日に作った焼き飯のおかわり。てっきり三角コーナーに捨てられたと考えた。けれど、翌日の朝、室内のどこからか香ばしい匂いがしていた。もしかして、一冬はおかわりをとっておいてこっそり食べていたんじゃないか。
かり、かりかりかりかり…。
_
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 28