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ならば、すごすごと引き下がるしかない。
早朝…というか、日が昇っている時にトクメイが外に出るのは久々だった。引きこもっていた数ヶ月の間に、気候はもちろん、辺り茂っている木々や草花がすっかり様変わりしている。
元いたアパートは家賃滞納で追い出された身。本来なら行くあてなどないトクメイだったが、先程まで一緒に住んでいた人間のおかげで一つだけ…向かう場所があった。
『羨ましいんなら、こんなとこにずっと居ついてないで仕事行けば。』
一冬のぶっきらぼうな声が心底懐かしい。考えながら、トクメイの足は半月働いたオフィスのある貸ビルへと向かっていく。
家主だった男に突き動かされ、トクメイは社員たちの言葉を思い返してみる。…言われてみれば、皆がトクメイのことを気にかけていたように思う。
『これからが不安ね~…。』
少なくともこれから、があった。言葉に縛られて見えていなかったものが、トクメイの中で浮かび上がってくる。
『××はドジだなぁ~。』
バカ、とは言われなかった。もしかするとおっちょこちょいだ、と指摘して注意喚起を促していたのかもしれない。
『もう~、何度目だと思っているの??』
また、とか何度目だとかは、改めて考え直すとかなり曖昧な言い方に思える。きっと、相手に具体的な数字を挙げられた方が自分は息苦しいに違いない。
『俺だったら、辛くてやめたくなるレベルだよ。』
お前は頑張っているな、ととれなくもない。
前向きに捉えすぎている節は少なからずあるだろう。けれど、社員の皆が頭ごなしにトクメイを怒鳴りつけはしなかった。本人からきちんと理由を聞いて、訂正するべき箇所を解説してくれた。…もしかしなくても、自分はかなりの温室で育てられていたのだろう。
会社が、数ヶ月連絡の途絶えた社員を雇い続けているはずがない。相手にされないに決まっていたが、退職するにあたっての挨拶くらいはしておきたかった。…言えない可能性の方が大きいとしても、だ。
(…にしても、何で一冬さんは僕が働いていたって知っていたのかな。)
今時、セキュリティとしてはどうなの、と言いたくなるインターフォンを押して、スチール製のドア前で待つ。トクメイは今朝、主の部屋を出て行ったのと同じ、長袖の白いハイネックセーターにジーンズだ。百歩譲っても、スーツ着用が義務付けられていた会社に行く格好ではない。
インターフォンに若い女性が出た。知っている社員だった。名前を答えると、扉向こうからバタバタいう音がする。目を点にしていると、思いっきり扉が開け放たれて、中から女性社員が飛びついてきた。
「匿間君っ!!匿間君じゃないのっ!!」
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