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7.犯人
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王宮のロックウェルの執務室へと連れてこられたクレイは特にこれと言った感慨もないように手近な椅子へと腰かけた。
(変な人…)
その紫の瞳の色から王族だと想定はできたが、特に王宮に入る際も渋る様子もなく、物珍しそうにキョロキョロしたりもしなかった。
まるでその態度は場所などどこでも同じだと言わんばかりだ。
そしてそっと自分の影へと目線をやると何やら聞き慣れない言葉で短く問いかけた。
そこへ人ならざる者の声が諾と返ってくる。
その後暫く何やら話した後、その者が彼の掌へと吸い込まれていった。
「……なるほどな」
そして何やら含む言葉を呟いてクレイは考え込んでしまう。
「…何かわかったのか?」
勿体ぶらずに教えろとロックウェルが言うがクレイはなかなか口を開かない。
一体何がわかったと言うのだろう?
「…正直言いにくいことだが、結論だけを言ってもいいか?」
「え?」
真っ直ぐに自分へと向けられたクレイの視線に戸惑いながらもシリィは真っ向から彼の視線を受け止める。
まさか姉はもう生きていないとかそういった類の事なのだろうか?
覚悟を決めるべきなのかと思い、シリィはゴクリと喉を鳴らしながら無言でコクリと頷いた。
しかし彼の口から飛び出した言葉はやはり突拍子もない言葉で――――。
「この問題はお前が婚約者殿に嫁げば全て解決だ」
「……は?」
その言葉に思わず目が点になる。
一体どういう意味なのだろうか?
婚約者に嫁ぐことと姉を救うことがどう繋がるのかシリィにはさっぱりわからなかった。
これはからかわれたのだと考えてよいのではないか?
「ちょっと…!!」
そうやって食って掛かろうとしたシリィだったが、それをいち早くロックウェルが制し、口をはさむ。
「つまり…そう言うことか?」
「そう言うことだ」
思わせぶりな二人のやり取りに、シリィはついて行くことができず混乱するばかり。
「ロックウェル様?!一体どういうことです?」
説明をお願いしますと言うシリィに嘆息すると、ロックウェルは短くクレイへと促した。
「構わん。詳細を」
その言葉と同時にクレイはこの事件の概要を話し始めた。
***
「まず、浚われたと言う姉の痕跡を追ってみた」
それは言われずともわかる。
けれどこちらが一年かけてもわからなかった案件だ。
一体どうやって犯人を突き止めたと言うのだろう?
「途中枝分かれするように幾重にも分散し、糸が絡まるかのように惑乱の魔法が掛けられていた」
そうだ。だからこそ自分達にはわからなかったのだ。
「だが、大枠で見ると三通りの法則が見られた。一つはただのトラップ。もう一つはそのトラップへの誘導。最後の一つは…相手からの監視…」
どこまで追ってこられるか、相手はこちらを探っていたのだとクレイは言った。
「監視と言うことはそこは相手と直接繋がっているルートだ。だから気づかれないよう痕跡を消しながら追跡した」
そしてそれを行っていた魔道士へとあっという間にたどり着いたのだ。
しかもその者を調べたところ、ただの黒魔道士などではなかったと言う。
「身元を探ったらすぐに判明した。あの男は隣国ソレーユの第二王子、ライアードのお抱え黒魔道士だった」
その言葉にシリィの頭が真っ白になる。
「……え?」
それはつまり、どういうことなのだろう?
ライアードが姉を浚った犯人だとでもいうのだろうか?
「別に、信じられないなら信じなくてもいい。ただあの男の目的は姉妹を手元に置いておくことのようだったから、お前があいつに嫁いだ時点で目的は達成される。王子はそれで満足するし、お前は姉に会える。だからお前が嫁いだ時点で事件は全て解決だ」
淡々と告げられたその言葉にシリィは完全に思考が停止し、自分がどうしていいのか全く分からなくなってしまった。
(…ライアード様が犯人?)
姉妹で手元に置いておくことが目的?
本当に?
とてもではないがそんな話を信じられるはずがなかった。
けれどクレイは信じられないなら信じなくてもいいと言った。
自分が嫁げば事件は解決し、全てが明らかになると…。
(でも…本当に?)
それは事件解決と言えるのだろうか?
自分がライアードの元へ嫁いだとして、そこで水晶化された姉と再会したとしよう。
それがもし本当なのだとしたら、自分はその時ライアードにどんな顔を向けるのだろう?
大人しく妃として身を任せることなどできるのだろうか?
そう考えたところでシリィはぶるりと身震いがしてしまう。
(無理よ…)
そんなことは絶対に考えられない。
恐らく泣きながらライアードに罵声を浴びせかけてしまうことだろう。
そうなれば自分はその場で殺されてしまうかもしれない。
もしくは姉同様水晶化されて城のオブジェとなってしまうかもしれない。
そこまで考えてシリィは恐怖でカタカタと震え始めてしまった。
そんなシリィに気付き、ロックウェルがクレイへと口を開く。
「…解決なはずがないだろう。そんな話を聞かされて、はいそうですかと嫁げるはずもない」
けれどクレイはにべもなく告げた。
「それならどうする?婚約破棄をした上で姉を無理やり取り戻すのか?それこそ国際問題になるぞ?」
「…意地悪だなクレイ」
「そうかな」
「そうだ」
二人の間に見えない火花が散る。
けれど構わずクレイは言葉を紡いだ。
「…お前がどうにかしたいと言うなら、間に入って上手くやればいいだろう?」
「……」
「口先三寸の二枚舌はお前の得意技だろうに」
フッと冷笑を浮かべたクレイにロックウェルがギリッと歯噛みする。
「…随分嫌味を言えるようになったな」
これまではそんなことを口にするような男ではなかったのにと言うロックウェルにクレイがどこか悲しげに顔を歪めた。
「……お前が俺をそうさせたんだろう?」
その言葉にロックウェルの顔がショックを受けたように歪んだ。
「…お前は卑怯だ」
「…何とでも言え」
そしてクレイはガタッと音を立てて立ち上がると二人に背を向け手を振った。
「犯人は確かに教えたから、俺はこれで失礼する」
「ちょっ…!」
「待てっ…!」
二人が慌てて呼び止めたが、クレイは何かを振り払うかのように黒衣を翻し、次の瞬間自身の影へと身を沈めその姿を消した。
後にはただ静寂だけが残され、ロックウェルとシリィの心に苦しみだけを残したのだった――――。
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