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14.解呪
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―――――!!!!
(魔法が解ける…!)
それは確信だった。
何故なら確かにロイドがニッと笑ったからだ。
彼はこの魔法をきちんと理解していた。
主からの命令は絶対だ。
水晶が壊せないなら魔法を解いて姉を殺せば問題ないと思ったのだろう。
「姉様!!」
慌てて時を止める魔法を唱えようとするが間に合わない。
折角クレイが忠告しに来てくれたと言うのに自分は姉を助けることができなかった。
その絶望感が身を襲う。
けれどそれは術が解ける瞬間にキィンッ!という甲高い音が響いて、希望へと変わった。
「だから気をつけろと言っただろう?」
「クレイ!!」
彼が来てくれた―――。
それが嬉しくて、シリィは思わず涙ぐんでしまう。
時を止める魔法がしっかりと姉の身体を包んでいるのがわかる。
それに対してロイドが悔しそうに歯噛みする姿が目に留まった。
そんなロイドにクレイが目を向け短く声を掛ける。
「…このままもらっていくが、異議はないか?」
「……!主の命令は絶対だ」
「まあそうだな。だが…」
そう言うや否やクレイがスッと動いてライアードへと近づき、トンッと額を突いた。
それと同時にライアードの意識が途切れ、そのまま気を失ってしまう。
「性癖は変えられないが、方向修正してやるのもお抱え魔道士の仕事だろう?」
そう言って艶やかに微笑んだクレイにロイドが呆気にとられる。
「…何をした?」
「彼が言う綺麗なもの、美しいもの…に人を含めなければいいと思ってな」
「…意識操作か?」
「まあそんなところだ。お前もその方がやりやすいだろうに」
「……」
黒魔道士ならではのやり取りにシリィは口を出すこともできずただ黙って事を見守るばかり。
するとロイドがやがて深く息を吐いてクレイへと何やら手渡した。
「何かあれば連絡する」
「わかった」
恐らく黒魔道士の領域云々の話なのだろうなと察しはついたがこればかりは専門外だ。
やがて話をつけたクレイが自分の方へとやってきて口を開いた。
「この水晶像はこのまま影渡りで俺が国に運んでおく。お前達はロイドと事後処理をしてから帰ってこい」
その間クレイはロックウェルとは一度として目を合わせず、彼もまた何も言わなかった。
二人の間の溝はかなり深そうで、口を出すのも憚られたため、シリィとしてもただ頷くことしかできない。
そして『二人が国に帰ってくるまで責任を持って預かっておくから』と、クレイはサシェの像と共に影へと身を沈め、そのまま姿を消した。
「……シリィ。お前は昔同僚から聞いた話を思い出したからと言っていたが、違ったんだな」
「……申し訳ありません」
クレイが去ってからポツリと呟かれたその言葉がやけに切なくて、シリィは顔を上げることができなかった。
ロックウェルは一体どう思いながらクレイを見送ったのだろうか?
なくしてしまった友情を…やるせない思いで噛みしめているのだろうか?
「……ロックウェル様。国に帰ったら、一緒にお礼を言いに行きましょう」
ただそれだけを告げることしかできない自分が悲しかったが、いつか二人の仲が良くなればいいなとシリィは思った。
***
一時はどうなることかと思ったが、その後ついでだからと言って自分との婚約をライアード側から解消してくれるようロイドが手はずを整えてくれたのは有難かった。
これで何の問題もなく国へと帰れる。
ロイドの協力を得て全ての事後処理を終え、無事に二人はアストラス国へと帰ってきた。
「クレイ!」
王宮に帰ると同時にクレイが水晶像と共に姿を現してくれたのでシリィは笑顔で礼を言う。
「姉様を助けてくれてありがとう」
「いや。無事でよかった。取りあえず時間を止めたままにしているが、このまま回復魔法を掛ければ問題はない」
その言葉にシリィが姉へと向き直る。
そこには懐かしい姉の姿があり、本当に助けることができたのだと喜びに涙が込み上げて仕方がなかった。
「喜ぶのはまだ早いぞ。一年分だからな。強力な回復魔法を使ってやってくれ」
「わかったわ」
それに対してロックウェルもスッと歩を進める。
「私も手伝おう」
「ありがとうございます」
シリィが礼を言うも、相変わらず目も合わせない二人に居心地の悪さを感じてしまう。
けれどこればかりは本当にどうしようもない。
気にせずシリィはそのまま回復魔法を唱え始め、同時にロックウェルも同じように呪文を唱え始めた。
二つの回復魔法がサシェへと向けられ、そのまま身体を包み込む。
ヒュワッ!!と音を立てその身が輝くと同時にクレイがスッと動いた。
「これで大丈夫だろう」
そしてそのまま時を止める魔法を解除して、それと同時によろけた姉を抱きとめる。
「うっ…」
僅かなうめき声を上げてサシェが身を起こし、そっと支えてくれたクレイへと視線を向けた。
「え?あら?」
「…シリィが待ってる。彼女を安心させてやってくれ」
それと同時にスッと手をとりシリィへと引き渡すと、クレイはシリィへと向けて僅かに微笑んだ。
「これで俺の役目もおしまいだ」
「クレイ!」
シリィがサシェを受け止めながらクレイへと声を掛けるが、クレイはそのままいつかのように背を向け手を振るだけだ。
(本当に…不器用な人)
いつかきちんとお礼をしたい。
(落ち着いたら改めて会いに行ってみようかな…)
そう思いながら、シリィはそっと温もりを確かめるように姉の体を抱きしめた。
***
「クレイ!」
廊下を歩いていると思いがけずロックウェルから呼び止められ足を止める。
けれど彼のその声はどこか苦しげで、どうしても振り向くことができない自分がいた。
(ロックウェル…)
ここ最近、ずっと…いくら考えてもわからない彼の事ばかりを考えている自分がいた。
ファルと話をして、二度と会わなくてもいいから陰からロックウェルの力になりたいと思いはしたが、それでもどこかでまた会いたい気持ちがあった。
それは否定したくても否定できない気持ちで…。
クレイはギュッと手を握りしめると、思い切ってロックウェルの方へと振り向いた。
「無事に解決できてよかった」
そう言って無理やり笑顔を作る。
自分は上手く笑えているだろうか?
何でもないように装えているだろうか?
傷ついた心が悲鳴を上げるが、気づかない振りをして言葉を紡ぐ。
「仕事に割り込んで悪かったな」
それだけを告げるとそのまままた背を向け一歩を踏み出した。
(もう十分だ…)
顔を見て言葉を交わしただけで自分的に十分頑張ったと思おう。
もう会うこともないのだから、早く離れるに越したことはない。
(これで…本当に最後だ…)
そう思いながら軋む心を誤魔化しこの場を去ろうと思ったのに、何故かロックウェルから腕を掴まれ驚いた。
ダンッと壁へと押し付けられ、そのまま逃げないようにと腕を顔の横へと置かれて囲い込まれる。
一体何が起こったのか…理解ができない。
恐る恐るロックウェルへと視線を向けると、彼は何故か複雑そうな顔で自分を見つめていた――――。
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