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21.牽制
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「助かった…」
無事にロックウェルの元から帰還して、クレイは安堵から自分の寝台へと突っ伏した。
一体どれくらいの時間抱かれ続けたのか…。
「腹が減った…」
すっかり日も堕ち、外は真っ暗になっている。
「ロックウェル…仕事サボりすぎじゃないのか?」
シリィは恐らくいつまでも戻らないロックウェルに焦ったことだろう。
「はぁ…」
回復魔法で体力は戻ったものの、先程までの情事を思い出してつい余韻に浸ってしまう。
正直気持ち良すぎてたまらなかった。
最初こそ抵抗はしたものの、焦らされた体はその身に覚えさせられた快感をどこまでも求め始める。
(まずいな…)
これ以上ロックウェルに抱かれてはどこまでも溺れてしまいそうで…怖かった。
やはりファルの言葉を聞かずに逃げるべきだったのではないだろうか?
このままでは自分が思っていた通り、泥沼にはまってしまうばかりだろう。
「いや…まだ遅くはない」
元通り…と言うほどではないのかもしれないが、今日の事で二人の間の溝が少しは埋まったような気もするし、これからはまた以前のように友人として上手くやっていけばよいのではないか?
「俺が油断さえしなければ済む話だ」
もう二度と押し倒されるようなシチュエーションに持ち込まなければいいのだ。
もし誘われても上手くかわして逃げればいい。
「俺はこのまま大人しくあいつのセフレになる気はない…」
クレイは自嘲するようにそう呟くと、腹ごしらえをするために街へと繰り出した。
「ロックウェル?!」
馴染みの店へと足を運ぶと思いがけず先程別れたばかりのロックウェルの姿があり驚いた。
「クレイ」
そこには以前と変わらぬ笑顔で座る姿があり、一瞬昔に時間が巻き戻ったのかと錯覚してしまうほどだった。
「……」
それでも…やはり昔とは関係が変わったからか、その眼差しに含まれる色合いは違うように感じられる。
しかし、さっきの今で一体何を話せばいいのだろう?
なんとなく気まずい気持ちを抱きながら料理と酒を注文し、運ばれてきたものを口に運びながら当たり障りのない話を少しした後、そっとロックウェルの様子を観察した。
仲間内と楽しげに話す姿は以前と何も変わらない。
どうやら機嫌は良さそうだし、仕事の方は問題なかったのだろう。
ここで八つ当たりでもされてはたまったものではないと思っていたので内心ホッとした。
(ここ最近ずっとギクシャクしていたからな…)
また関係が悪化するのは御免だ。
それにしてもまさかまたこうして同じテーブルに着ける日がやって来るとは思っても見なかった。
それだけでも…逃げなくて良かったと言うことなのだろうか?
そう考えていると、そこにふと…見知らぬ者が混ざっていることに気が付いた。
魔道士と言うにはどうも雰囲気が違って見えて、妙な違和感しか感じられない。
それなのに不思議と場に馴染んでいる。そんな相手だった。
(胡散臭いな…)
誰も気にしていないようだが、自分の中で警鐘が鳴るのを確かに感じる。
これはできるだけ近づかないに越したことはない。
クレイはなるべく目立たないようにそっと伝票を手に取ると速やかにこの場から離れることにした。
(折角の気に入った店だったんだがな…)
どうやら暫くここには近づかない方が良さそうだ。
(さて…明日からまた仕事だ)
ファルから連絡が入っていたし、気持ちを切り替えて自分は自分のやるべきことだけをやろう。
それが自分の決めた自分の生き方なのだから――――。
***
「クレイ!」
三日ぶりに呼び出され王宮へと足を向けるとそこにはシリィだけではなくロックウェルの姿も見えた。
(そう言えば協力すると言ってくれていたな…)
どうやらその場凌ぎの社交辞令ではなく、本当に力になってくれるようだ。
(まあシリィは部下だし、部下思いのロックウェルなら当然か)
大して気にも留めずそのまま笑顔で二人に合流する。
「あのね。ロックウェル様が今回の件で協力するって言ってくれたんだけど…」
「何か名案でも浮かんだのか?」
シリィの言葉を受けてロックウェルの方へ目を向けると、ロックウェルはにっこりと微笑みながら口を開いた。
「ああ。色々詳細を聞いて考えたんだが、ここでサシェに『恋人ができた』と言うのは間違っていると言いたくてな」
「と言うと?」
「婚約破棄からそう日が経っているわけでもないのに恋人ができたと言うのは嘘くさい上に、下手をすればシリィに尻軽なイメージがついてしまうだろう?」
なるほど。そう言われてみれば確かにそうかもしれない。
「だから、ここは『気になる人ができた』くらいの方が真実味が強い」
その言葉に二人は確かにと納得した。
さすがロックウェルだ。実に的を射ている。
「幸いシリィはクレイに好意を抱いているようだから、そこを上手く利用してサシェに見せつければ問題はないと思う」
「ロ…ロックウェル様?!」
ロックウェルからのその言葉にシリィが焦ったように頬を染める。
しかしクレイはその言葉にそれほど意味があるとは思わなかった。
(まあ付き合いも長くなってきて最近は随分親しくもなったことだし、当然好意的にもなるよな)
それを使うと言うのは非常に名案だと思われた。
「じゃあどうする?すぐにでも姉の前で仲良くすればいいのか?」
だから淡々とそう返したのに、何故かまた二人に微妙な顔をされてしまった。
((絶対にわかってない!!))
何故か二人揃ってそう顔に書いてあるように見えて首を傾げてしまう。
自分はまた何か察し間違えたのだろうか?
けれどこの場合はそもそもの依頼が姉を安心させることだし、この答えは間違ってはいないと思うのだが…。
「……わかった。じゃあ午後にでもサシェに時間を取ってもらうとしようか」
ロックウェルは早々に諦めたのか、すぐにそう話を切り替えてきた。
この辺りはさすが元親友。
自分の扱いをよくわかっている。
「それじゃあそれまでに一仕事片付けて出直してくる」
「そうか」
軽く微笑み影を渡ってその場を後にし、クレイはそのまま別の仕事へと向かった。
***
(クレイ…。本当にどこまでも鈍いな)
あれほどはっきりとシリィの気持ちを伝えてやったにもかかわらず、全く分かっていないどころか気にも留めていないようだった。
自分としては完全に脈なしだとわかって嬉しい限りではあったのだが…。
「シリィ…完全に脈なしだな」
どこかフッと勝ち誇ったような顔で言ってやれば、シリィはすっかり涙目だ。
「酷いです!クレイの前であんなことを言うなんて…」
「別に間違ってはいないだろう?」
「…っ!確かに気になっている存在であるのは合っていますけど、少しずつ親しくなっていこうと思っていた矢先に酷いじゃありませんか!」
クレイが天然で軽く流してくれたから良かったものの、これで気まずくなったらどうしてくれるつもりだったのかと訴えてくる。
だがそんなものは知ったことではない。
(シリィ…。サシェの件で協力はするが、私はお前とクレイをくっつける気は毛頭ない)
そうやってどこか昏く笑う自分に気付き、シリィの顔が蒼白になる。
シリィの顔には『いつもは部下思いの良い上司なのに、どうして急にそんな意地悪をしてきたのだろう?自分は何かしてしまっただろうか?』と書いてあるようだった。
けれどここでしっかりと牽制をしておくべきなのだと敢えてその言葉を紡ぐ。
「言っておくが…あいつをお前にやるつもりはない」
(あいつはもう私だけのものだ―――)
自身が抱く独占欲がシリィへと深く釘を刺した。
けれどその言葉にシリィの顔が怒りに染まる。
そして人の恋愛ごとにまで口を出してほしくはないと言わんばかりに涙目になりながら反論してきた。
「そんなこと…クレイの気持ちの問題で、ロックウェル様は関係ないじゃありませんか!友情が戻ったのは喜ばしいですが…私は私なりの方法でクレイにアプローチしますから!」
何を言われても聞くつもりはないと精一杯の虚勢を張ると、シリィは午後の逢瀬に向けての時間確保のため仕事へと戻っていった。
そんな姿にロックウェルはため息しか出てこない。
自分を虜にして離さないのと同じように、シリィの心もいつの間にかクレイに囚われてしまったのだろうか?
「それでも…絶対に譲る気はないがな…」
フッと不敵に笑いながら、ロックウェルもまた午後の逢瀬に備えて自分の仕事へと取り掛かったのだった。
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