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95.知らされた事実
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「いや~。本当にクレイって天然だな」
「本当に。本来なら近寄りがたい人物なんだろうけど、あのロックウェル様の前で見せるうっかりさが妙に可愛くて和むな」
「ロックウェル様は大変そうだけどな」
「ああでもあのドS発言は笑えた!」
ハハハと笑いながら歩く面々はとても楽しそうだ。
そんな第一部隊の者達を脇目に、第二部隊の面々はロックウェルの元へと急いでいた。
正直黒魔道士主体である第三部隊は無傷だったが、白魔道士主体である第二部隊は昨日の騒ぎで大きなダメージを受けたのだ。
王宮内を使い魔達が飛び交う中必死に自分の身や官吏達を守ろうと奮闘したにもかかわらず、半数以上がよくわからないまま広間へと捕えられ、挙句に取り調べ後そのうちの6名程が牢へと入れられてしまった。
その中には隊長のカインまで含まれている。
広間にいたはずの者達に事情を聴くも、誰も詳細については口を割ろうとはしない。
陛下の御意志だと…ただそれだけなのだ。
あれは絶対に王から口を割ったら牢に入れるとでも言われたに違いがない。
そんな者達に第二部隊内では不信感ばかりが募りギクシャクするばかり。
これでは部隊のチームワークがメチャクチャだ。
「ロックウェル様」
扉をノックしコーネリアが執務室へと入ると、そこにはシリィと仕事をするロックウェルの姿があった。
「ああ。コーネリアか。そろそろ来ると思っていた」
その言葉に第二部隊の事を気に掛けてくれていたのが窺えて、コーネリアは深く頭を下げる。
「お気遣いいただきありがとうございます」
「昨日の騒ぎで白魔道士が大勢含まれていたからな。お前には苦労を掛けるが、よろしく頼む」
「それなのですが、我々一同大変困惑しております。使い魔達の暴走と陛下は仰いましたが、その主が誰で、どうなったのかまでは明かされておりません。その者が罰されないまま何故か被害者であるはずの者達が牢に入れられたと聞き、我々も憤りを隠せません。何か納得のいく理由さえあれば第二部隊をまた纏める切欠と致しますが…」
「ああ。お前の気持ちもわかる。カイン始め数名は牢に入れられたと報告も受けているしな」
そんな言葉と共に皆をテーブルに座るよう促し、ロックウェルとシリィもまたそちらへと移動してくる。
「まず、今から話す件については他言無用に願いたい」
「…かしこまりました」
素直にそう口にすると、ロックウェルは今回の概要について話してくれた。
「この件に関しては王妃が浚われたところから端を発していてな」
「王妃様が?」
「ああ。離宮から何者かに浚われ、私の友人に調査を依頼していた」
「…クレイでございますね」
「そうだ。そしてそれについてはすぐに見つけることができたのだが、どうもそれに絡んだ貴族が黒魔道士排除派だったようでな」
「……」
「王妃を洗脳し、自分を助けに来るであろう黒魔道士を排除せよと命じたらしいのだ」
「洗脳…」
「助けた際は眠らせていたから第一部隊の黒魔道士達には何事もなかったのだが、その後様子を見るために起こしたところで、寝起きで混乱していた王妃が私を毒針で襲おうとして…」
「ロックウェル様を?!」
「ああ。そこをクレイが庇って毒を受けて倒れてしまったんだ」
「…クレイが」
「ちょうどその前々日に別件で黒魔道士排除派の件でクレイは酷い目に合っていたから、それと合わせて眷属達が怒り心頭でな…」
それで一気にあの暴走劇へと繋がってしまったのだとロックウェルは説明してくれた。
それではいくら悔しくても怒るに怒れないではないか。
「では…カイン隊長達は…」
「黒魔道士排除派だったのだろうな」
「でも広間に居て隊に戻ってきた者もおります。その者達と牢に入れられた者達との違いはなんだったのです?」
「…それは」
「単にコアメンバーだったからです」
これまで黙って口を閉ざしていたシリィが静かに口を挟む。
「広間にいたのは100名を超えていましたが、その中で今牢に入れられている38名は黒魔道士排除派のコアメンバーが主です。それ以外の数名は、取り調べの際に暴言を吐いた者と聞いています」
カインが積極的に暴言を吐くとは思えないから、恐らくコアメンバーだったのだろうとシリィは淡々と述べた。
「…排除派のコアメンバー…」
その言葉に思い返してみると、確かにカインは黒魔道士を毛嫌いしていたように思う。
積極的に第三部隊を潰せと言ってみたりクレイを王宮で好き勝手させるな等の発言をしていたため、それについてはコーネリアもよく耳にしていた。
けれどだからと言って本人が牢に入れられるほど何か罪を犯したわけではないはずだ。
「…納得がいかない気持ちもわかるが、王妃を利用したのは排除派であることに違いはない。陛下におかれてはこれを機に、王宮内の秩序を乱す排除派を一掃したいお気持ちである」
「…かしこまりました」
それならば気持ちを飲みこんで従うほかはない。
「お前には苦労を掛けるが、新しい白魔道士の補充も行い早く隊を立て直してもらいたいと思う」
「……」
「追って陛下から第二部隊の隊長としてお前に話が行くと思う。受けてもらえるか?」
「私に…でございますか?」
それは思いがけない言葉だった。
新たに隊長を立て、共に立て直して行けと…そう言われるものだとばかり思っていたのだが――――。
「ああ。お前にしかできないと思い、私の方から推させてもらった」
「そんな…勿体ないお言葉でございます」
誰よりも慕うロックウェルにそこまで言ってもらえて、コーネリアは感無量だった。
まさかロックウェルがそこまで自分を認めてくれていたとは思っても見なかった。
「これからも私のために、国のために尽くしてもらえたら嬉しい」
絶大な信頼をもって笑顔で言ってくれたロックウェルに思わず涙が込み上げる。
「は…。全てはお慕いするロックウェル様のために…」
「よろしく頼む」
そして第二部隊の者は一斉に礼を執ると、そのまま自分達の部隊へと向かった。
話を聞いて立て直す算段は大体ついた。後は行動に移すのみだ。
(ロックウェル様…。必ず以前よりももっともっと素晴らしい第二部隊にしてみせます)
だからその時は、気持ちをぶつけさせてください――――。
コーネリアはそっと頬を染めながらロックウェルを想った。
***
「それにしてもロックウェル様。あのアベルと言う白魔道士、本当に釈放してしまってよかったんですか?」
シリィが書類を手にロックウェルへと尋ねるが、ロックウェルは全く気にした様子もなくそれ以外に選択肢はないだろうと言った。
「あれは私と同等の力を持つ高位の白魔道士だぞ?魔力が取り戻せたのなら牢に入れるのは不可能だ」
「…そんなはっきり」
牢破り前提で話されても正直困ってしまうではないか。
「でもそれだとクレイがいつまでも自宅に帰れませんよ?」
かなり怖がっていたからと心配して言ったのに、ロックウェルはどこ吹く風だ。
「別にずっと私と一緒にいればいいんだから問題はない」
「そんなこと言って…。お互い恋人と会う時不便じゃないんですか?気まずくなってしまいますよ?」
何気なくシリィは思ったままを言ったつもりだったのだが、何故かロックウェルにため息を吐かれてしまった。
「シリィは鈍いのか鋭いのかわからないな」
「…?一体どういう意味です?」
「だから、クレイが私の恋人だと何度も暗に言っている」
「へ?」
呆れたようなロックウェルの言葉に思わずと言うように動きを止めてしまう。
「あ…あの…?今聞き捨てならない冗談が聞こえたような気がするのですが?」
「冗談ではなく本気だ」
そんな返答に頭の中がグルグル回って混乱する。
「大体私がただの友人にあんな贈り物をすると思うか?」
確かに出掛けた際クレイは物凄く嬉しそうにロックウェルに抱きついていたし、贈り物もとても喜んでいた。
思い返すとロックウェルと朝一緒にいることも多かったし、泊っていると本人も何度となく言っていたように思う。
それらを総合して考えるに――――。
「…!友人だったんじゃないんですか?!」
封印を解いてからこっち、ずっと二人を見てきたのに一体いつからそんな関係になったのかさっぱりわからなかった。
「確かに最初は友人だったが、あまりに頑なに私から逃げるから許し難くてな…」
「……!!クレイが天然なのを利用して手籠めにしたんですね?!酷い!」
思い返すと確かに封印のショックで最初の頃はクレイはロックウェルから逃げ回っていた。
もしかしたら自分が回復魔法で助けた時、ロックウェルに手籠めにされそうになっていたのかもしれない。
どうして気づいてあげられなかったのだろうか…?
「いや。手に入れたら可愛いすぎて私が嵌ったんだ」
「同じですよ!百戦錬磨なロックウェル様からあの不器用なクレイが逃げられるはずないんですから…!」
あまりにも可哀想すぎる…。
「さっきもドSって言って怒っていましたし、どうせ酷いことを沢山しているんでしょう?!」
「…精一杯可愛がっているが?」
「絶対に嘘です!今度クレイに直接聞きますからね!」
「惚気られるのがオチだぞ?」
「~~~~!!それでも、私はクレイの味方ですから!」
自分の好きな相手が酷い目に合わされるのを黙って見ていられるはずがない。
「場合によっては別れていただきます!」
「嫌がると思うぞ?あいつはもう私にベタ惚れだからな」
そうやってどこまでも自惚れた上司にシリィは空いた口がふさがらなかった。
どこまで自分に自信があるのだろうか?
「はぁ…ロックウェル様を振り回せるほどクレイが器用だったらよかったのに…」
つくづく心からそう思う。
「今でも十分振り回されているから、どうにかしたいところだ」
「そんなはずがないでしょうに。ロックウェル様を振り回せる相手なんて早々いませんよ」
「いや。いくら調教してもすぐにやらかしてくるから始末に負えなくてな」
「ちょ、調教?!やっぱり酷いことをしてるんじゃありませんか…!最低です!」
そんな二人の会話を入ってきた第一部隊の者達が赤面しながら聞いていたのは気づきもせず、やっぱり今日はクレイに突撃よとシリィは改めて決意したのだった。
***
その日の夕方、シリィはロックウェルの部屋近くでタイミングよくクレイを捕まえることに成功し、そのまま自分の部屋へと連れて行った。
「クレイ…!ロックウェル様と恋人同士って本当?」
一応念のため確認してみると、クレイはあっさりと頷いた。
「ああ」
どうやら特に秘密というわけではなさそうだ。
「私、さっき聞いて心配になったんだけど、酷いこととかされてない?」
「酷いこと…?たまにはされるけど、大体俺が悪いようだからまあ仕方がないかな?」
(ひ、否定しない…!自分が悪いとか言っちゃってるし、やっぱり調教されてるのね?!)
いくらクレイが原因でもこれは聞き捨てならない。
「た、例えばどんな酷いことを?」
「え?」
「虐められたりするの?」
「虐められるのはしょっちゅうだぞ?魔法で拘束されて犯されたり、道具で虐められたり色々だ」
その口から飛び出した衝撃の言葉に頭が真っ白になる。
ロックウェルは何という酷いことをしているのだろう?
「クレイ!悪いことは言わないから、今すぐロックウェル様と別れた方がいいわ!」
「え?」
「そんなの可哀想すぎる…。うっ…」
ポロポロと泣き始めたシリィにクレイが焦ったように声を掛けてくる。
「ちょっ…!シリィ?そんな風に泣くな…。どうしていいかわからなくなるから…」
そして困ったように優しくギュッと抱きしめてくれるから、シリィの涙は益々止まらなくなってしまった。
「俺の事でそんなに心を痛めるなんて、シリィは優しすぎる…」
「うっ…だって…」
優しく頭を撫でてくれるクレイがそんな目に合っているなんて何とかしてやりたくて仕方がない。
「クレイ…私ね、ロイドの気持ちがわかったわ」
「え?」
「ロイドもクレイとロックウェル様が付き合っているのを知っているんでしょう?」
「まあな」
「きっとクレイをロックウェル様から守ってあげたかったのね」
「ああ、まあロイドは意外と優しいところがあるからな」
「今度ロイドと会ったら、私同盟を組むわ!」
「え?」
「クレイを守る会よ!何かあったらすぐに言ってちょうだいね!」
「?…わかった」
よくはわからないがありがとうと笑ってくれたクレイに、シリィも嬉しくなる。
やっぱりクレイは素敵な男性だ。
絶対に幸せになってもらいたい。
「ロックウェル様の部屋に居ずらくなったらここに逃げてきてくれてもいいから」
そう言って送り出した自分にクレイはふわりと微笑み、クシャッと頭を撫でてくれる。
「シリィも困ったことがあればいつでも頼ってくれていいから」
「ありがとう」
そんな優しいクレイの言葉にやっと心から安心して微笑むことができた。
けれど折角の良い雰囲気を壊すかのように横から第三者の声が割り込んでくる。
「…女性の部屋から出てくるとは感心しないな?クレイ?」
「へ?」
そこに立って居たのは他の誰でもなく、噂のロックウェルで…。
シリィはしまったと慌てて二人の間に割り込んだ。
「ロックウェル様!これは私が話を聞くために…!」
けれど聞く気はないとばかりにロックウェルはグイッとクレイを自分の方へと引き寄せて、腕の中へと抱き込んでしまった。
「シリィ。人の恋人を部屋に連れ込むのはやめてくれないか?」
「…クレイは私の大事な友人です!問題ありません!」
キッと強い眼差しで言い切ると、クレイもそうだぞと声を上げてくれる。
「シリィはお前の信頼する部下だろう?これくらいのことで嫉妬するな」
そしてよいしょとあっさりと腕の中から脱出するが、それ以上は離れようとはしない。
「じゃあシリィ。また」
「あ、ええ。またね!」
そうしてクレイがいつものように背を向けてヒラリと手を振ってくる。
それはいつもと変わらない姿だ。
けれど彼は紛れもなくロックウェルの恋人だった。
そのまま並んで仲良く歩き出す。
「うっ…ひっく…」
そんな姿を見送って、扉を閉めそのままずるずると床へとしゃがみ込んだ。
目の前で見せつけられた恋の終わりに胸が苦しくて仕方がない。
シリィはそのまま暫くその場で泣き続けたのだった。
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