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98.眷属契約
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ハインツは今日はちょっと遅いなと思いながらそっと部屋の外を窺ったのだが、そこで思いがけず情事を目にして慌てて部屋へと戻ってきていた。
「そう言えばあの二人って付き合ってたんだった…」
女装しているからか、ロックウェルと睦み合うクレイの姿は女性にしか見えなかった。
いつもどこか素っ気ないクレイが頰を染めながらロックウェルに縋る姿はなんだか綺麗で、思い出すだけでドキドキしてしまう。
あんな姿を見せられると気恥ずかしくて仕方がない。
「僕もそのうち誰かとあんな風にすることがあるのかな?」
そうやって真っ赤な顔でポツリと呟いたところで、やっと二人がやってきた。
そこにいるのはもうすっかりいつも通りの二人で、先程の様子を垣間見ることはできない。
「ハインツ、遅くなってすまない」
「大丈夫だよ。またロックウェル様と喧嘩でもしてたの?」
先程見た光景を誤魔化すようにそう尋ねると、思いがけずロックウェルから肯定するような返事が返ってきた。
「…当たらずとも遠からずですね」
「こいつが執務室でいらないことをするから悪いんだ」
どうやら喧嘩の仲直りがあれだったらしいと見当がつく。
「…痴話喧嘩もほどほどにね」
そうやってクスクスと笑って言うとクレイはほんの少し頰を染めて視線を逸らした。
(こう言うところがきっとロックウェル様がお好きなところなんだろうな…)
そう結論づけて、今日は眷属について教えてくださいねと笑顔で促した。
***
「今日は眷属との契約の仕方だったな」
そう言ってクレイがハインツを誘って庭園へと向かう。
「たとえばこういう場所でも、普通に魔物はいて…」
「え?」
ハインツはその言葉で周囲を見回すが、全くそんな気配は感じられない。
「ああ。そんなにわかりやすくはいないから探しても無駄だぞ?」
クレイの話によると、いわゆるフリーの魔物達は少しずれた空間でのんびり過ごしているらしい。
人と関わりたい時だけこちらへとやってくるのだとか。
「そうだな。この辺でいいか」
そして庭園のベンチへとハインツを座らせた。
そこでそっととある魔法を教えてくれる。
「これは言ってみれば、魔物と話すために『誰か来てくれ』と呼びかける魔法だ」
まずはそれが最初のステップなのだと言う。
そこでどんな相手が望ましいか考えながら呼びかけると求める相手がくる確率が上がるとのことだった。
「それで話してみてフィーリングが合えば『一緒にいてほしい』と契約を結ぶ」
これで眷属契約完了だとクレイは教えてくれた。
「取りあえずやってみろ」
その言葉にハインツはコクリと頷き、緊張しながらも教えられたとおり呪文を唱える。
(僕と一緒に国を守ってくれる、優しくて話好きな眷属が欲しいな…)
そう願いながら暫く待っていると、そこに二体の魔物が現れた。
「ク…クレイ!二体も来ちゃったんだけど…!」
「ああ。別にそれは構わない。普通に話せばいいから」
そう言われて恐る恐る話しかける。
「あ…あの…こんにちは」
【私をお呼びになったのは貴方ですか?】
【お話し相手になってくれるの?】
「う、うん!僕、ハインツって言うんだ。君たちは?」
【私はライラでございます】
【僕はルルカスだよ】
「ライラとルルカスだね?君たちは普段何してるの?」
【私は平和が何よりと考えておりますので、この庭に危ない者が来たら追い払うことにしております】
【僕もここを荒らす奴は嫌いだからよく追い払ってるよ】
「耳が痛い…」
クレイが先日の件でこっそりと落ち込んでいる姿が目にとまったのか、ライラとルルカスがチラリとそちらを見遣る。
【あの方は?】
「ああ。僕の兄上だよ」
【知ってる。アメジスト・アイだ!僕、あの人の魔力も好きだな】
【眷属や使い魔を大切になさるお方ですね。皆とても主を慕っておりますわ。そういう方は私も好きです】
「本当に?僕も大好きなんだ!クレイは本当に凄くてね、僕に色んなことを教えてくれるし、以前も僕を守ってくれてね…!」
そうやって嬉しそうに語りだしたハインツにクレイが居た堪れないとそわそわしだしたので、これ幸いとロックウェルは自分も眷属を捕まえたいと口にした。
ハインツの方は見る限りあれなら多少放っておいても問題はないだろう。
「お前も眷属が欲しいのか?」
その話にクレイは不思議そうにしたが、以前ヒュースが回収された時にクレイと連絡を取る手段が全くなくて困ったのだと言う話をすると、なるほどなと納得してくれた。
「とは言え白魔道士に好き好んで使役されたい奴が早々いるとは思えないんだが…」
まあダメ元でやってみろと言われ、ロックウェルは先程のハインツと同じように魔物へと呼び掛けてみた。
(クレイを守るために喜んで私の下僕になってくれる奴が欲しい)
そう思いながら呪文を唱えると、意外にも自分の前に二体の魔物が姿を見せた。
何かの間違いかもしれないから、一応先程思った内容をそのまま口にしてみる。
「私が望んだのは下僕志願の魔物だが、相違ないか?」
そんな言葉にクレイがゲッと言うような顔をするが知ったことではない。
【…なにやら面白そうな声が聞こえたので来てみました】
【好きな者を守るためと言うのが私的にツボでした】
「お、お前達!やめておけ!そいつはドSだぞ?!下僕と言ったら本当に下僕扱いだと思うぞ?!」
クレイが失礼なことを言いながら横で騒いでいるがそのまま抱き込んで口を塞いでやる。
「お前は黙っていろ」
「~~~~~っ?!」
「この恋人を守るために私の力になってくれるなら、お前達と喜んで眷属契約を結ばせてもらいたい」
その言葉に二体がそっと顔を見合わせた。
【私は何やら面白そうなので喜んでお仕えさせていただきます】
【そうですね。私も…その方を大切になさるお気持ちに感銘を受けましたので、お受けしたいと思います】
「そうか」
そしてロックウェルは艶やかに笑うと、そのまま二体に向けて契約の魔法を紡いだ。
「お前達と主従の契約を結ぶ…。名と共に我が望みに応えよ」
【キサラにございます…御心のままに】
【ヴァリアークでございます…どうぞお好きにお呼びくださいませ】
こうしてロックウェルはあっという間に二体の眷属を従えた。
「クレイ!ロックウェル様!僕もルルカスとライラと無事に契約を結べたよ!」
無邪気なハインツを見て、クレイはロックウェルの腕の中であっちは普通で良かったとげっそりと項垂れた。
その後は新しく契約を結んだ眷属との過ごし方や注意点、魔力を暴走させないコツなどをクレイが二人へと教えてくれる。
「兎に角眷属は使役時間が長くなると魔力を消費するから、なんでもかんでも使いすぎないこと!それと仕事を終えた後にも魔力は報酬として奪われるからな。そこを忘れないように、動かす時は考えてから使え」
「わかった」
「あと、話す分には魔力は消費しないし、普段から積極的にコミュニケーションを取っておくといざと言う時意思疎通がしやすくなるから…」
そうやってクレイは色々と話してくれるので二人は一言一句聞き漏らさないようにと大人しく話を聞いた。
そうこうしている内にあっという間に時間が過ぎ、今日の教育時間は終わってしまう。
「あ、じゃあ今日はここまでだね」
「そうだな。じゃあまた食事会の席で」
「うん!ありがとう」
「ではまた後程。失礼いたします」
嬉しそうに微笑むハインツに手を振り二人がいつもの通り部屋を出る。
恐らく一度執務室の方へ顔を出して急ぎの仕事を片付けに行くのだろう。
いつもは名残惜しい時間だが、今日はまた後で会えると思うと嬉しくて仕方がなかった。
(今日はいっぱいお話するんだ)
そうしてハインツは嬉しそうに食事会の準備へと取り掛かった。
***
「あ、ロックウェル様。お帰りなさいませ…って!眷属が増えていませんか?!」
「ああ。今日ハインツ王子が眷属契約をすると言うので私も試しにやってみた」
何でもないことのように答えたロックウェルに第一部隊の者も興味津々で話を聞きに来る。
「凄い!どちらもメチャクチャ力が強い眷属ですよ?!」
「え~?白魔道士なのにこんないい眷属従えるなんてズルいですよ!」
さすがロックウェル様と持て囃す面々の脇でクレイがそっと胃を押さえる。
「クレイの話だと白魔道士と契約してくれる眷属は弱い奴かマニアックな奴って話でしたけど…」
「…そうだな。かなりマニアックだぞ」
「どんな内容で契約したんです?」
「私の下僕になってくれる者がいいと呼び掛けたら来てくれた」
その言葉に皆が思い切り吹き出した。
「ロ…ロックウェル様…」
「マジですか?」
そしてそっとクレイの方へ視線を向けてきた面々に、クレイはだから言っただろうと叫ぶように言った。
「白魔道士と契約を結ぶ奴は絶対マニアックなんだ!ドSなこいつの下僕になりたがるなんて絶対おかしい!」
そうやってクレイが叫ぶと同時にロックウェルの眷属が早速と言うように会話へと混ざる。
【クレイ様。ロックウェル様は貴方を守るために下僕になる者をと仰っておられましたよ?】
【そうですよ。深い愛でございます】
そんな言葉に羞恥プレイだと言いながらクレイは真っ赤になって部屋から飛び出して行った。
「お前達。クレイは恥ずかしがり屋だからあまり虐めてやるな」
【本当の事を言ったまでだったのですが…】
【そうですよ。何をそんなに照れる必要が?】
「では言い換えよう。あいつを虐めていいのは私だけだ」
【ああ、なるほど。かしこまりました】
わかればいいと満足げに言ったロックウェルに、第一部隊の皆は揃ってクレイに同情の眼差しを向ける。
どうも思っている以上に部下に対する態度と恋人に対する態度は違うらしいと察した面々だった。
***
「うぅ…酷い…」
庭園のベンチでクレイが恥ずかしさに身悶えていると、そこに声を掛けてくる者があった。
「クレア殿?」
その声にえ?と顔を上げると、そこには偶然にも養父であるドルトの姿があり、驚いて目を見開いてしまう。
「ち…ド…ドルト…殿」
父と呼びそうになって慌てて修正し、クレイは思わずパタパタと身だしなみを整えた。
おかしなところはなかっただろうか?
「このようなところでどうなさったのです?」
そうやって声を掛けてくれた父に緊張しながら言葉を紡ぐ。
「…今日の食事会の前に時間ができたので、少し散策をしておりました」
「そうですか」
それで話は終わるだろうとクレイは思ったのだが、思いがけずドルトはそっと手を取ってくれた。
「では食事会の席まで私がご案内いたしましょう」
「え?」
「少し遠回りすればちょうどいい時間になりますから」
そんな言葉に少し嬉しくなって、ではお言葉に甘えてと一緒に歩き出す。
「クレア殿はロックウェル様の恋人だとか」
「え?ああ、はい」
そんな事まで耳に入っているのかとドキドキしながらそっと最低限の返事を返す。
「彼はモテると聞いたのでさぞ大変でしょうね」
「…そうですね。今でも信じられないほどです」
「まあこれほどの美人なら納得する者も多いでしょう。ちなみに私にも妻がいるのですが、実にもったいない程美しい妻でね」
「……」
「これがまた可愛いのですよ」
まさか父の口から惚気を聞かされるとは思ってもみなかった。
「最初は陛下から下賜された貴族の娘を仕方なく受け入れたくらいに思っていたんですが、何故か私を見る目はいつも切なそうで不思議でした」
それはそうだろう。
母は父の元に嫁ぎたくて王に抱かれたような人なのだから…。
「それで…いつだったか二人で寄り添いながらポツポツと話した日があって…」
その日は何故か人寂しい気持ちで、どちらからともなくそっと寄り添ってお茶を飲んだのだと言う。
「彼女がずっと長い間私を想ってくれていたのを知ったんです。それからですね…二人で庭を歩くことが増えたんですよ」
そして庭園の端に咲く紫の花の前へと立った。
「その時にね、二人で気に入ったのがこの花なんです」
そんな言葉にクレイが大きく目を見開いた。
「さり気ないけどよく見るととても綺麗でしょう?この花がね、朝露でキラキラ輝いているのを見るのが特に夫婦のお気に入りなんです」
そう言ってそっと一輪手に取って髪へと飾ってくれる。
「何故か今度貴女に会ったらこの話がしてみたくて、ついお誘いしてしまいました。ああ、やはり貴女には紫が良く似合う」
これならロックウェルも気にいるだろうと笑ってくれた父にクレイは気がつけば涙を溢れさせていた。
「クレア殿?どうかなさいましたか?」
「いえ…。いいえ…」
「もしや何かお気を悪くさせてしまったでしょうか」
「いいえ。どうぞお気になさらず」
そう言いながらそっとその花に触れて礼を言う。
「これ以上ない喜びをありがとうございます」
そんなクレイにドルトはそっと微笑みを返すとクシャリと頭を撫でて、行きましょうかとまた手を取ってくれた。
(父様…)
そうしてクレイはその大切な時間を噛みしめるように、そっと食事会へと向かったのだった。
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