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幻の味
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俺達が食堂に足を踏み入れた瞬間、それまで騒がしかった室内が、一瞬静寂に包まれ、それからすぐに悲鳴にも近い歓声が起こった。
それに眉を潜めながらも空いてる席を探し奥へと進む。
隅っこの方に運よく空いている席を見つけそこに腰かける。
そうすると少しは騒がさしさが収まる。
それでもチラチラ寄越される視線やヒソヒソ囁かれる声はなくならないけど。
んなこといちいち気にしてても仕方ない。
腹も減ったし。
さてなに食べるかな。
ピッピッと各テーブルに備え付けてあるモニターを操作する。
がっつり系でいくか、さっぱり系でいくか。
どっちでもいいじゃんとか思うかもしれないが甘いな。
考えてもみろ。
今日最後の食事だぞ?
それを、美味しかったと満足して終わるか、ちょっと微妙だったなと後悔して終わるかじゃ充実感がまるで違う。
だからこそ夜だけは真剣に選ぶ。
朝と昼は適当に済ますことが多いけど。
言うなればこの時間は俺にとって神聖な儀式と同一だ。
誰にも邪魔されたくない。
だというのに、
「大和決めた?つかいつまで悩んでんの?こんなもんは直感でパパパッと決めるもんなの。ということで大和はこれな」
あっ、と思う間もなく目の前に差し出された指。
それはなんの迷いもなく液晶の上を滑る。
気付いた時にはすでに"注文を承りました"と無機質な文面が映しだされていた。
いまさらキャンセルなんてできないし、ここのスタッフは優秀だからすぐ料理が運ばれてくるだろう。
べつに好き嫌いはないからなんだって食べるさ。
食べるけれども
「お前、これはないわ」
「え、なにが?」
「なんで俺の晩飯が特盛パフェなんだよ」
清都が許可なくモニターをタッチして俺の晩御飯だと言って選んだのは、甘党男子の人気No.1。
グラスの底にカステラが敷き詰められ、その上に
クリームと色とりどりのフルーツが幾重にも層を成し、それはまるで大きく巨大なタワーのように眼前に聳え立つ。
デザート総選挙では不動の1位を守り続け、じきに殿堂入りするだろうと言われている。
だがこれが注文されることは滅多にない。
それは値段がものすごーく高いからだ。
一介の学生の小遣いで買えるような代物じゃない。
しかもここは小説の舞台として一部の女子達が好む王道学園ではない。
全寮制で、親衛隊もいるが、抱きたい抱かれたいランキングなんていう腐ったものはなく生徒会は真面目な立候補制で選ばれる。
大企業の跡取りがわんさかいるわけでもなく、たいていは一般家庭の出身で。
特出している点といえば中高一貫高でイケメンにキャーキャー言ってる連中がいること。
イケメンが好きなのは共学も同じだろうけど、ここでは男が男に色めき立っている。
思春期を男しかいない空間で過ごせば、その恋愛対象は必然的に男に向く。
それは仕方ないことだと思う。
現に俺も親衛隊の可愛くてちっこい連中にキャーキャー言われるのは好きだし。
特別問題がなければ部屋替えはないって分かってたけど、少しは新しい刺激を求めて期待しちゃうような男だけど。
っとだいぶ話がそれたけど、つまりここはドラマや映画のようなブルジョワ学園じゃなくてちょっと授業料が高いくらいの普通の私立高で。
変わっていることといえば山の中腹にあって最寄り駅までバスで一時間てこと。
つまり何が言いたいかって言うとここに通うのは一般庶民だってこと。
だったら何故、デザート総選挙で1位であり続けるのかというと、それは憧れからだ。
いったいどんな味がするんだろう
こんなに高いんだから絶対旨いよな
食べたい!
あ、あっちで食べてるじゃん
うまそ~
羨望の眼差しはやがて憧憬になる。
手が出せない高嶺の華だからこそ欲しくなる。
そんなわけで甘党男子の視線を一身に受けるその特盛パフェが今日の俺の晩御飯になりかけているわけで。
「お前、これはないわ」
もう一度同じ言葉を繰り返す。
「だからなにが?」
それに同じ言葉が返ってくる。
「なんで俺の晩飯が特盛パフェなんだよ」
さらに同じ言葉を続ける。
「え?・・・・・美味しそうだったから?」
「美味しそうだったから?・・・・・じゃねぇよ。どうすんだよこれ。もう取り消せないし、すぐ来るだろ。ここの厨房無駄に優秀なんだから」
「あはは」
呑気に笑うその姿に本気で殺意が芽生えた。
「ごめんごめん、お詫びに好きなもの奢るから」
「当たり前だ」
その言葉に甘え、というか当然だろと思いながら肉部門で一番高いスペシャルビックステーキを速攻で選んだ俺を見て奴は渋い顔をしていた。
「・・・・・マジで?」
「なにか文句が?」
「・・・・・・・・・ありません」
届いたスペシャルビックステーキを見て頭を抱えていた姿は多分一生忘れないと思う。
写メでも撮っとけばよかった。
それでもやっぱり少し可哀想になったので少し別けてやることにした。
なんて優しいんだろう。
俺は。
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