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突然の辞令 …1
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冬休み三日目。
王宮のとある執務室で、アルフレッドとレオンが机を向かい合わせて仕事をしている。
次期国王の予定のアルフレッドは、政務を学ぶためにいくつかの省庁を回る事になっているのだ。
「はぁ……」
書類をめくる音と、ペンを走らせる音の中に、たまに溜息が混じる。
「はぁ……」
「……っ、アルフレッド、様?」
気が散って仕方がない、とレオンがアルフレッドに声をかけた。
「……あ?あぁ、何だ?」
「何だ、じゃないですよ。さっきから何ですか」
「何とは?」
アルフレッドの様子に、今度はレオンが溜息を吐く番だった。
「全く……どちらかに遊びに行かれたいのなら、早く終わらせる事です」
「む……私は遊びに行きたいなどと考えてはいない」
「では、先程からのため息は何ですか?」
「ため息?…………はぁ。……あ。あぁ、すまない」
今気付いた、と言うように、アルフレッドが謝った。
「実は……いや……」
アルフレッドが何か悩むような素振りをして、目を泳がせた。
「昼休みに、聞かせてくださいね。あなたの悩みに付き合うのも、私の仕事ですから」
「レオン、お前……」
馬鹿にしたような言い方に、アルフレッドがキロリとレオンを睨む。
「はいはい。今は手を動かしてください」
レオンは素っ気なくそう言った。
最近のアルフレッドの悩みは、大概がルシエルの事だ。
数日前の悩みは、男同士の性行為についてだった。
未だ誰とも交わった事のないレオンは、なぜ自分がこんな事まで聞かされなければならないのかと、逆に悩んだものだ。
そう。レオンは童貞だ。
というのも、早くからアルフレッドの側近として仕えていたため、遊ぶ時間がなかったのが理由の一つだ。
そして、真面目すぎる彼の性格も影響している。
王太子の側近が女と遊んで、万が一にでも王太子の名に傷をつける事を恐れているのである。
ちなみにミシェルともまだキス止まりだ。
そんな彼が、アルフレッドからルシエルの惚気を聞かされるのは辛かった。
その時のウンザリとした思いが、未だに抜けきれずにいる。
どうせくだらない悩みだろうと思っていたレオンは、アルフレッドから聞かされた話に、驚きを隠せなかった。
「国王陛下が?」
「そうだ」
昼休みにアルフレッドが語った話は、昨夜、彼の父から呼び出され、ルシエルの事を根掘り葉掘り聞かれたという事だった。
「ルシエル様のこと、どこからバレたのか。いえ、それは愚問ですね。……それより、どんな意図がお有りで、ルシエル様の事を聞かれたのか……」
「父上の考えは分からない。聞くだけ聞いて、すぐに退出させられたからな。何にせよ、良い予感はしない。……ルシエルに何も被害が及ばなければいいが」
アルフレッドは昨日の父の様子を思い出して、ため息を吐いた。
グラシアン陛下は特に何も言わなかったが、おそらくルシエルとの付き合いを良く思っていない事はアルフレッドの目にも明らかだった。
その様子から考えられたのは、グラシアン陛下がルシエルに破局を促すという事だった。
「ルシエル様にお手紙を書かれてはいかがでしょう?国王陛下が、何か動き出す前に、注意しておくというのは?」
「あぁ、確かにそうだな」
アルフレッド達は、すでにグラシアン国王が動いている事を知らなかった。
まあ、ルシエルの家族によって、本人にそれが伝えられる事はなかったため、ルシエルにまだ実害はなかったのだが。
「では、早速……」
手紙を書く用意をしようとレオンが立ち上がったところで、二人の側にグラシアン国王の秘書がやって来た。
「ご機嫌いかがでございますか?アルフレッド様」
「あぁ。……どうした?こんなところに」
「陛下より、急ぎの通達があり、お伝えに参りました」
「通達?」
アルフレッドは国王秘書が差し出す書簡を受け取った。
国王からの通達と言えば、王太子としての公務を指示するものがほとんどだ。
何処かへ視察か、もしくは議会への出席だろうか?とアルフレッドが書簡に目を通す。
「これ、は……」
その内容を確認したアルフレッドは驚きの表情を見せた。
「ええ。その内容の通り、新学期よりインディール国へ留学せよとの事でございます」
「留学⁈こんな急に⁈」
秘書の言葉に、レオンが驚いた。
「えぇ。先日、インディール国より交換留学についての相談がございまして。この度アルフレッド殿下が留学生として選ばれたのでございます」
ちなみに、ここでの交換留学とは、文化交流ではなく国同士の交流という意味合いが大きく、それぞれの国の王子や王女が留学生として赴く。
しかし国賓とも言える身分のため、安全を保障するという意味で、お互いの王族を「交換」する制度なのである。
悪く言えば、それぞれが人質である。
「それは、エドワードが行く予定だっただろう?しかも、来年ではなかったか?」
エドワードとは、二つ下のアルフレッドの弟で、この国の第二王子である。
「はい。ですが、色々ありまして……。アルフレッド殿下の方が適任と判断されました。もう、先方にも連絡済みでございます。時期も問題なく了承頂けるでしょう」
「そこまで話が進んでいるのか?」
「はい。本日をもって執務は終了。留学の準備をせよと陛下が仰せでございます」
秘書の言葉に、アルフレッドもレオンも言葉を失うしかなかった。
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