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救出に至るまで …1
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それは、イーサン主催のお茶会が発表される前の日に遡る。
「イーサン殿下の従事が……媚薬を?」
「左様でございます。インディール国より送られた荷物の中にあったそうです」
ここは、王城の奥。
王家の者の住まう塔の一室、ヴィヴィアンの私室である。
そこへ、イーサンの周辺を見張っていた密偵が、主人へと報告に来ているのである。
「媚薬……とは、あの、いかがわしい薬の事、よね?どういった種類のものかしら?」
「荷物を検分した者は、そこまでは分からなかったと。何せ、お香の中に隠してあったそうなので、ハッキリとは嗅ぎ分けられなかったそうです。その従事も、インディール国の香の一種だと言い張ったそうですし。なにより、なぜかその場にイーサン殿下が現れて『私に免じて許してやってくれ』と言って、その場を治めたそうです」
「治めた、って。……やられたわ。検分所のあり方を見直さねばならないわね。まぁ、媚薬を見つけた事は褒めてつかわすけれど」
ヴィヴィアンは眉根を寄せて、難しい顔をした。
「私達王族に使うつもりなら、それは無駄な事だわ。毒味係がいるし、何より私達は匂いや味で直ぐに気付くもの。けれど、もし、別の者に使うとしたら?例えば……ルシエル様、とか……」
自身のその想像にヴィヴィアンは背筋がヒヤリとする感覚がした。
何か悪い予感がする。
と言うか、ルシエル以外に、イーサンが媚薬を使ってまで落としたい相手がいるだろうか?
……そこまで考えると、ヴィヴィアンは慌てて椅子から立ち上がった。
駆けるようにして机まで行き、小さな紙に文を書いた。
「これを……。どんな方法でも良いわ。伝書鳩の使用許可は出します。今すぐアルフレッドお兄様に届けなさい」
「かしこまりました」
「それと、媚薬を手にした従事から目を離さないで。私はエドワードお兄様とレオン様に会うわ。誰か取り次ぎを」
「ハッ」
その次の日、イーサン主催のお茶会が開催される旨が発表された。
それを聞いたヴィヴィアンはますます焦った。
お茶会など、イーサンの従事がルシエルに近付き放題である。
さらに、ルシエルが手をつける物に何かを盛るのも簡単になる。
ヴィヴィアンは内密に、イーサンに気を付けるようにとミシェルに手紙を送った。
変に事を大きくするのは現段階では躊躇われたため、ルシエルに直接言うのは避けたのだ。
しかし、ルシエルはすでにお茶会に出席すると返事を出してしまった後だった。
この時、媚薬の件に関してはハッキリとした証拠がないためミシェルには伏せていた。
本当に媚薬が使われるか分からない状況で変な動きを見せる訳にはいかない。
些細な失敗でも、他国に対して揉め事の火種を作るのは避けたかった。
その辺も含めてルシエル本人にもキチンと説明し注意を促すべきだったと、後のヴィヴィアンは後悔する事となる。
伝書鳩と早馬を使った手紙は、4日後にはアルフレッドの手元に届いた。
内容はシンプルに"鷹に花を摘まれたくなければすぐ帰れ。後の事は後任に任せよ"だった。
検閲を見越して、鷹や花などの隠語が使われていたが、アルフレッドはその内容を正しく理解した。
イーサンにルシエルの身体が狙われているという内容である。
この手紙を受け取った時、アルフレッドは数分固まったまま動けなかった。
ようやく会えると思っていたルシエルが他人の手に渡るなど、想像も出来なかったからだ。
そして、その手紙の内容を飲み込んだ後、アルフレッドは鬼の形相となった。
側に控えていた従事が、軽く悲鳴を上げたとか上げなかったとか……
アルフレッドはすぐにインディール国の国王にお目通りを願い、それを成した。
「私のいない間に、ある者が私の恋人を無理矢理自分の物にしようとしている」と直訴したのだ。
「恋人……とは、以前話していたあの者か?」
「左様でございます」
実は、アルフレッドは国王と酒を酌み交わしながら恋バナをしたことがある。
きっかけは、婚約者のいないアルフレッドに何人も夜の刺客を送られたことによる。
他国と言えど、アルフレッドは王太子である。
王家との縁戚を狙って、何人もの女がアルフレッドの寝室に送り込まれた。
国王も、ある意味接待の一つとして、それらを見て見ぬ振りをして放ったらかしていた。
しかし、どの様な魅了的な女(稀に男)が来ようとも、アルフレッドは誰の誘惑も受けなかった。
余りにもしつこくて困ったため、アルフレッドは夕飯の席で国王に何気なく「私には国に待つ恋人がいる。その者しか側に置く気は無い。最近は枕元が騒がしく眠れない」と切り出したのだ。
その後、なぜか国王に酒に誘われ、男の会話で盛り上がったのだ。
大半はインディール国王の王妃と側室の自慢話だったのだが……。
その時に、アルフレッドは運命の相手がいる、と話したのだ。
アルフレッドからの直訴を受けた当初、インディール国王は「恋人の一人や二人……」的な発想でアルフレッドの言葉を受け流そうとした。
しかし最終的に、アルフレッドの言った言葉に負けた。
「父も母も公認の恋人です。それをイーサン殿が……」という言葉が効いたのだ。
国王と王妃も認める程のアルフレッドの寵愛する相手を、インディール国の王子が横から掻っ攫ったとなれば……その印象は最悪である。
何より、イーサンが予定外の留学を渋った時に「あちらで良い人の一人や二人見つければよい。気に入れば連れ帰っても良い」と、羽目を外す許可を出したのはインディール国王であった。
それを思い出したインディール国王は「残りの公務は弟に任せるので、今すぐ帰りたい」というアルフレッドの言葉に、首を縦に降るしかなかった。
そして「馬鹿なことはやめなさい」と書いたイーサン宛の手紙をアルフレッドに託すのも忘れなかった。
そんな訳で、アルフレッドはヴィヴィアンの手紙を受け取った翌日には、早馬を駆って、自国への旅路に着いた。
街ごとに馬を乗り換え、最低限の休息を経て……5日というあり得ない速度で、自国へと帰って来た。
それが、ルシエルが誘われたイーサン主催のお茶会当日である。
アルフレッドが、風呂で旅の汚れを落としながら従事から報告を受ける。
流石に汚れた姿で城内を歩くわけにはいかないからだ。
報告を聞きながら、アルフレッドの機嫌がどんどん悪くなるのを従事はビクビクしながら見ていた。
いつも飄々としたアルフレッドがこんなに感情を露わにするところを見たことがなかったからである。
「イーサン殿が、ルシエルを抱えて……消えた?」
「は、はい。後を追おうとしたのですが、従事に邪魔をされて……。大変申し訳ございませんっ。今、どこに消えたのか捜索中です」
レオンとヴィヴィアンも捜索に加わっているという報告を聞きながら、アルフレッドは素早く身支度を整えた。
「私も探す」とアルフレッドが部屋を出ようとした時、ヴィヴィアンの密偵が現れた。
「ご報告がございます。ただ今、ルシエル様とイーサン王子殿下を見つけました。今、ヴィヴィアン王女殿下が……」
「報告は歩きながら聞く。案内しろ」
「ハッ。かしこまり、ました」
アルフレッドの聞いたことのない低い声に、その場の誰もが肝を冷やした。
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