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ゲームの舞台 …1
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9月。
今日から新学期が始まる。
ルシエル達は王立学園高等部の三年生になった。
つまり、恋愛シミュレーションゲーム『恋の花』の本編が始まる。
それを意識せずにはいられないルシエルは、緊張しながら登園した。
途中馬車の中で「どうしたの?」とミシェルから散々心配されるほどに挙動不審だった。
何せ、今日ゲームの主人公マリーが高等部庶民棟から貴族棟に編入してくるのだ。
ちなみに、ゲームの中で主人公の顔は出てこなかったので、ルシエルは顔で判断することは出来ない。
分かるのは"マリー"という名前と、髪が茶色という事だけ。
学園について、掲示されたクラス分けを見ると、ミシェルとルシエルは別のクラスになっていた。
ルシエルのクラスにはジローとエドワードの名前があった。
さらっと掲示板を流し見したが"マリー"という名前は見つけられなかった。
代わりに、ミシェルと同じクラスに"ジョルジュ・フランシス"という名前を見つけた。
これは、ゲームの攻略対象の一人である。
宰相の息子だが、学者を目指している。
ルシエルは同じクラスになった事がなく、ジョルジュとは接点がなかったが、ゲームと同じで可愛らしい見た目をしているのは確認済みだ。
さらに、新任講師のところに"フィリップ・アーガイル"の名前を見つけた。
こちらも、ゲームの攻略対象だ。
王宮騎士団長の長男で、剣術の講師として学園に通う。
「あら、またルゥと離れ離れね?残念」
「そうだね。……あ、でもミィのところはハンナさんが一緒だよ?良かったね!」
「えぇ、そうね。それにしても……なんでそんなに真剣にクラス分け見てるの?誰か気になる方でも?」
「あ、いや!別に!」
「そう?じゃ、行きましょう?」
「あ……うん。行こう」
馬車の中でも散々心配されたので、これ以上心配させる訳にはいかず、ルシエルはゲームの事は頭から追い出した。
もし、ルシエルがマリーの事を意識していると知れば、ミシェルもマリーを意識するだろう。
ルシエルはそれだけは避けたかった。
いくら現状がゲーム時の状況と違っていても、なるべくミシェルとマリーを接触させたくなかったからだ。
新しいクラスに入って、簡単なオリエンテーションを受けてから、初日は終わった。
結果から言うと、ルシエルのクラスにはマリーはいなかった。
そして、帰りの馬車で、ルシエルは驚く事を知る。
「今日、私のクラスに庶民棟からの編入生が来ましたわ」
「えっ?」
突然のミシェルの報告に、ルシエルは背中を冷や汗が流れるのを感じた。
「へ、へぇ……編入生って、珍しいね?」
動揺を見せまいと、ルシエルは必死に言葉を絞り出す。
「聞いた話によると、シンプソン伯爵が平民から養子を取られたそうなのですわ。それでその方が今まで通っていた庶民棟から貴族棟に編入になったらしいの」
「へぇー……シンプソン伯爵……」
間違いない、マリーだ、とルシエルは思った。
「そう。マリエ・シンプソンという女性なの。……大変よねぇ、庶民棟と貴族棟では色々と勝手が違うでしょうに」
「えっ?マリ、エ?」
思っていたのと違う名前が聞こえて、ルシエルは思わず聞き返した。
「?そうよ。マリエと言うお名前でしたわ。あぁ、確かに、珍しい名前かしら?……まぁ、平民の方々の流行りのお名前はよく分からないから、珍しいと言うのも失礼かもしれないけれど」
マリエ、とルシエルは心の中で呟いた。
確かに、ゲームの主人公らしき人物は現れたようだ。
しかし名前が違うとはどう言う事なのだと必死で頭を働かせた。
そしてふと、一つの事を思い出す。
"マリー"という名前は、ただの初期設定だという事を。
ルシエルの前世マモルは、特にこだわりがなかったため、初期設定のまま主人公を動かしていたが、確かにゲームスタート時に名前を入力する画面が出てきたのをぼんやりと思い出した。
つまり、名前がマリーでない可能性は確かにあるのだ。
(でも、なんで初期設定じゃないんだろう?何かの意思が働いたのかな?いや、そもそも僕の記憶違い?うーーん)
「っ!っう」
突然、ルシエルを頭痛が襲った。
最近は全く出ていなかった、前世を思い出す時の頭痛だ。
「ルゥ?どうしたの?もしかして、頭、痛い?……大丈夫?最近落ち着いているようだったから油断していたわ。お薬は?持ってる?」
ルシエルはフルフルと首を振った。
久々に感じる頭痛は、とても酷いものだった。
「大変。……ねぇ!少し急いでちょうだい!ルシエルが頭痛なの!あっ、でも、揺らさないように!」
ミシェルが御者に向かって声をかけるのを、霞がかかる頭でルシエルは聞いた。
「……っ!!はっ、はっ。…………はぁ、っ」
ルシエルが目を開けると、そこは見慣れたルシエルの部屋だった。
窓から夕陽が差し込むのを見て、時間の経過を知る。
どうやら自分は馬車の中で気を失ったのだと気付いた。
ゆっくりと身体を起こすと、侍女がタイミングよくドアを開けた。
「あっ!ルシエル様、お目覚めですか?お加減はいかがでしょうか?」
「うん。いつもの頭痛……かな?少しぼーっとするけど。大丈夫」
それから二、三言葉を交わして、侍女は医者を呼びに部屋を出て行った。
「はぁーー……」
気絶している間、ルシエルは夢を見ていた。
目の前で、マリー改めマリエに、アルフレッドを奪われる夢だった。
ゲームとそっくりなこの世界。
ゲーム本編スタート時の状況としては色々と違うが、役者は全て揃った。
(これからどうなるのかな?ゲームのように、マリー……じゃない、マリエは、誰かを選んで結ばれるのかな?)
何気なく、暖炉に目線が行った。
昔、ゲームの事を書いたノートをそこで燃やしたのが若干悔やまれる。
これから何が起こるのだったろうか……
ズキズキと痛む頭でルシエルはゲームに思いを馳せた。
ゲームの事を考えすぎたのが原因か、ルシエルはそれから3日ほど、学園を休む事となった。
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