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主人公?との対峙 …1
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春の暖かい風が学園の中庭のチューリップを揺らす。
昨年よりも色とりどりになった明るい花壇とは裏腹に、ルシエルは浮かない顔でチューリップを眺めていた。
気にしないようにしても、ふとした瞬間に思い出してしまうあの場面。
アルフレッドが、マリエからアロマキャンドルを受け取った場面だ。
それは、ゲームのシナリオの一つ。
ゲーム終盤になると、主人公マリーはアルフレッドとだいぶ親しくなっていて、ある時アルフレッドがイライラしている事に気付く。
それを何とかしてあげたいと、マリーがアルフレッドに贈り物をする事を思いつくのだ。
ここで選択肢が出てくる。
もう前世の記憶が曖昧なルシエルはハッキリとは覚えていないが、お菓子、ハーブティ、アロマキャンドルのどれかを選択し、手作りして渡す事になる。
アルフレッドがマリエからリボンが掛かった包みを受け取った場面を見て、ルシエルは思い出したのだ。
ゲームでは、アロマキャンドルを渡すとアルフレッドからの好感度が上がる。
さらに、アルフレッドの好感度があるレベルより上の場合それを笑顔で受け取ってもらえるのだ。
ちなみに、アロマキャンドル以外では笑顔は出ない。
最初、その現場を見たルシエルは(あぁ。こんな場面もあったな)くらいの感覚だった。
が、アルフレッドがマリエに笑顔を返すところを見て、ふとゲームの画面が脳裏に浮かんだ。
ここでアルフレッドの笑顔が見れると、分かる事がある。
それは……
(ここでアルフレッドが笑うと……バッドエンドは無い)
つまり、ミシェルが不幸になる未来が待っているのだ。
それに気付いたルシエルは、恐怖で足がすくんだ。
あの時感じた恐怖は、今もなおルシエルを震えさせる。
そしてもう一つ、ルシエルを悩ませている事がある。
王宮の中庭で二人を見た後、ルシエルとアルフレッドについて来たマリエに「一緒に行っても良いですか?」と、聞かれた時の事だ。
一瞬だが、マリエはルシエルを射抜くような鋭い目を向けた。
その目と目が合った瞬間、ルシエルはなんとも言い難い頭痛に見舞われたのだ。
強い痛みが来たのは一瞬だった。
しかしその後、痛みと入れ替わりで目の前が真っ赤に染まるような幻覚が見えたのだ。
そこから、ルシエルは記憶が曖昧になっている。
どうやってアルフレッドと離宮に行ったのか、その後何をしたのかハッキリしない。
とにかくアルフレッドに心配されて、しばらく休んでから家に帰ったという、ざっくりとした記憶しかないのだ。
前世の記憶を思い出す時の頭痛と、似ているようで違う。
あれはなんだったのだろうとルシエルは考えたが、一人で悩んだところで答えは出てこなかった。
(マリエに対して、変に意識をし過ぎなんだろうか……)
チューリップを眺めながら、ルシエルは溜息を吐く。
ミシェルもアルフレッドも、ゲームの内容とは多少違うながらも、結局ゲームと同じ動きをしているようにルシエルは感じていた。
ミシェルはマリエに小言を言っているし、アルフレッドは何だかんだと王宮の中庭でマリエと会っているようだ。
(ゲーム補正……なのかな?この世界は、やっぱりゲームなんだろうか?僕がどう動いても、結局ゲームのようにしかならないのだろうか?)
そんな事をぼんやり考えていた時である。
「こんにちはー」
突然後ろから声をかけられて、ルシエルは反射的に振り返った。
そこに立っていたのは、まさに今考えていた人物……風に髪を揺らすマリエだった。
「あ……あ、こ、こんにちは。シンプソン嬢」
前回のマリエの厳しい視線を思い出したルシエルは、思わず身構えた。
「今日は、お一人なんですねっ」
マリエがニコニコしながら、ルシエルの隣に立った。
ルシエルが動揺しているのには気付かないのか、マリエは目の前のチューリップを楽しそうに眺めた。
「チューリップ、見事に咲いてますねー」
マリエの楽しそうな声を聞きながら、ルシエルはマリエの様子を横目で伺った。
前回の睨まれた時の様な雰囲気はない。
先程少し目が合ったが、今日は頭痛は訪れなかった。
しかしマリエにはミシェルの事を探られたし、中庭でアルフレッドと一緒のところを見られているので、今日も何か言われるのではないだろうかと気が気ではなかった。
とりあえず適当に返事をする。
「あぁ、うん……」
「あ、あの一画のチューリップ……二色になってる」
花壇を眺めていたマリエが、ある一点を指差した。
そこには、花びらが二色になったチューリップが数本咲いている。
「あー……あれは、確か、珍しい品種らしくて……」
ジローが珍しい球根だと喜んで買っていたのを、ルシエルは思い出した。
「え?……あれ、多分ですけど、二色の品種じゃなくて病気持ちじゃないかなぁ?確か、モザイク病って言うんです。すぐに株ごと処分する事をお勧めしますよー。伝染しますから。それに、その球根を卸した業者、お付き合いを考えた方が良いかもしれませんね」
「えっ?そうなの?あ……ありがとう」
少し見ただけでこんな事を見抜くなんて、アルフレッドが褒めていただけの事はある、とルシエルは思った。
とりあえず後でジローにも伝えねば、と心に刻んだ。
「ところで、ルシエル様はアルフレッド様とはどういうご関係なんですか?」
「……え?」
今日のランチは何食べました?くらいの軽いノリで出てきたマリエからの突然の質問に、ルシエルは思わず聞き返した。
「いえ、その、先日、王宮の中庭でお会いしたでしょう?その時、なんだかとても仲が良さそうに見えたので……」
「!!……あ、あぁ。うん。そう、かな?仲良くは、させて、頂いている、よ?」
マリエが何を言いたいのかハッキリとは分からないが、とりあえず誤魔化さねばとルシエルは思った。
「へぇー。あの日は、あれからどちらに行かれたのですか?どのようなご用で?」
容赦ないマリエの質問に、ルシエルはタジタジになる。
マリエの意図がどうであれ、アルフレッドとの関係は簡単に人に言えるものではない。
「あぁ。じつは、殿下の使われている離れに、ここの温室で育てたラベンダーを移植したんだけど、その件でちょっとね」
こう言う時のために準備していた言い訳を、ルシエルは口にした。
まさかマリエ相手に使うとは思っていなかったが。
「へーえ……」
そう呟いたマリエの声に冷たいものに感じて、ルシエルは半歩マリエから離れた。
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