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女達の暗躍 …1
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それは、4月の定例議会での事。
この国の議会は、国王を中心に、宰相、各省庁の長官、貴族議員によって成り立っている。
宗教や政治団体、騎士団なども関わる事があるが、それは稀である。
その稀な状況が、その議会で起きていた。
「で、では……次の議題は、ビクトワール王妃閣下、お願い致します」
議長にそう促されて発言台の前に現れたのは、この国の王妃であるビクトワール・ローゼンクラウンであった。
「議長、わたくしは今日は婦人会の代表として参ったのですわ」
「え?あっ!ハッ!!大変失礼致しました!えーと、では、婦人会の方から、お願い致します」
場慣れしているはずの議長が焦るのも仕方ない。
婦人会とは、貴族の成人女性で成り立つ団体で、そのほとんどが貴族議員の妻という立場にある。
その団体は昨今、社会への女性進出が目立って来て、そういった女性の立場を守るために20年ほど前に設立された団体だ。
今まで婦人会の代表は宰相の妻が務めてきたのだが、ある時突然、その座を王妃が務めることとなった。
過去に王妃が発言者として議会に参加したことなどないため、議長は緊張を隠せない。
それまで婦人会の存在を邪険に扱っていた議員達も、相手が王妃となれば表立って不敬な態度を取る事は出来ない。
王妃、もとい、婦人会からの発言に、いつも以上に耳を傾けざるを得ない議員達であった。
「では、わたくし達の議案です。……皆様もご存知の、騎士団から出されている同性婚の承認についてですわ」
ビクトワール王妃の発言に、議会がざわついた事は言うまでもない。
その経緯に遡る事、一ヶ月。
国王一家の夕飯の席での事だ。
「アルフレッド……お前も再来月で二十歳だ。……対外的にも、そろそろ婚約者を決めねばならん」
国王のその言葉に、食器がカチャリとなる音があちこちから聞こえてきた。
「お父様?どう言う意味ですの?」
一番に反応したのは、ヴィヴィアンである。
彼女の目が、父である国王に突き刺さる。
「いや……何というか、とにかくうるさいのだ。アルフレッドに舞い込んで来る見合い話が」
グラシアン国王が、ため息混じりにそう言った。
「見合い……ですって?それは私の方で全て握りつぶしている筈ですのに!!」
ビクトワール王妃が、さらりと怖いことを言った。
「いや、なんというか……出先で私のところに直接舞い込んで来るのだよ。それはもう、公務に支障をきたすほど」
グラシアン国王が再びため息をつく。
「無視すればよろしいでしょう?それをなぜアルフレッドお兄様に言うのよ!お父様、酷い!」
「いや……だが、しかし……」
「ヴィー、落ち着け。……まぁ、父上の言いたいことも、分かるだろう?」
先日、想い人と婚約を結んだ、第二王子のエドワードがそう呟いた。
「えっ?エドワードお兄様まで!酷いっ!……確かに、わたくしたちは国民のために犠牲になる立場であることは理解しております。しかし、その心までもを束縛する権利は誰にもないはずです!……それにエドワードお兄様もご存知でしょう?アルフレッドお兄様には、心に決めた方がいらっしゃることを……っ」
「知ってるさ!知ってるけど……国王としての父上の気持ちも分からなくもないよ。何せ兄上は王太子なのだから!……それに、私のところにも話は聞こえてくるのだ。未だに婚約者を決めない、兄上の、……その、悪口と言うか、なんと言うか……。とにかく私は悔しいのだ!」
エドワードのその言葉の後、皆の視線はアルフレッドへと集まった。
国王の言葉を無視するように、一人黙々とナイフとフォークを動かしていたアルフレッドが、視線を受けてそれらをテーブルの上に置いた。
ナプキンで口元を拭い顔を上げ、ゆっくりと口を開く。
「ちょうど良い機会なので、父上にお聞き入れいただきたい事がございます」
アルフレッドが真剣な顔を見せたことで、その場にいた全員が居住まいを正してアルフレッドへと顔を向けた。
アルフレッドが給仕を部屋の外へ出させてから、口を開いた。
「王太子は、エドワードへと移譲したいと思います」
アルフレッドのその願いに、その部屋にいた全ての者が動きを止めた。
しばらくした後、最初に反応を示したのは弟のエドワードである。
「あ、兄上!私はそのような事、望んでおりませんっ!」
突然王太子の矢を向けられ慌てるエドワードに、アルフレッドは微かな笑みを見せた。
「エド、すまない……しかし、決めたのだ。私は……この立場を捨ててでも手放したくないものが、あるんだ」
「あに、うえ」
アルフレッドの真剣な顔に、エドワードは二の句が継げなくなった。
「アルフレッド、お前は自分が何を言っているのか、分かっているのか?」
グラシアン国王が、鋭い目をアルフレッドに向ける。
「ええ。分かっております。……私は、誰とも結婚するつもりはありません。……そしてそれが、王太子として……国を存続させる立場の者として相応しくない事は十分承知しています。だから、エドワードに譲るのです。幸い私はまだ学生の身。王太子を退いたところで、公務に支障を来すのは僅かで済むでしょう?」
しばらく睨み合うように視線を交わしていたアルフレッドとグラシアン国王だったが、先に視線を逸らしたのはグラシアン国王だった。
「……お前は、そこまであの男を……」
グラシアン国王が天を仰いだ。
ヴィヴィアンは、アルフレッドがここまでルシエルの事を愛していたのだと知って、感動でウルウルしている。
エドワードは、自分だけ好きな人と婚約出来た事に、感じる必要のない罪悪感を感じて項垂れた。
ビクトワール王妃のみ、いつもと変わらない微笑を浮かべてアルフレッドとグラシアン国王を見つめていた。
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