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ゲームと現実 …1
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それは、アルフレッドの誕生日まで2週間となったある日のこと。
ルシエルは、アルフレッドに会うために王宮の中庭を歩いていた。
待ち合わせの場所に差し掛かった時、ルシエルは思わず足を止めた。
その場所で、アルフレッドとマリエが抱き合っていたからである。
(な……ん、で)
ルシエルはフラリと後ろに後ずさるも、二人から目を離せなかった。
(落ち着け……ゲームにこんなシーンあったかな?……いや、いやいやいや……ここはゲームじゃない。でも、なんで?アルが、マリエと)
ルシエルは二人が抱き合っているのを改めて観察した。
(!!そうだ。……主人公がアルフレッドに『ミシェルにこんなことをされた』と相談する場面があった!……で、ハッピーエンドルートなら……アルフレッドが……主人公を安心させるようなことを言って……抱きしめるんだ!)
ズキズキと痛む頭をルシエルは抱えながら、ゲームの画像を思い出した。
そこまで思い至って、たまらず後戻りしようとした時、ルシエルはふとある違和感に気付いた。
ゲームでは、アルフレッドが主人公マリーを抱きしめる場面だった。
しかし今ルシエルの目の前にいるアルフレッドは、マリエを抱きしめてはいない。
よく見れば、マリエがアルフレッドに縋っているだけであって、アルフレッドの腕はだらんと下げられたままだ。
(ど、どういう……こと?)
今見ている場面は、ゲームのシナリオにはない状況なのだろうか?とルシエルは考えた。
この世界はゲームではない。
だから、ゲームで見た場面以外の状況が存在して当たり前なのだ、と。
自分の知らないところで、アルフレッドとマリエは仲良くなっていたのか。
ゲームとは違って、アルフレッドの誕生日前に、関係が進展したのか、と。
その時、アルフレッドが顔を上げて周りを気にするように視線を動かした。
そして、今にもその場から去ろうとしているルシエルを見つけた。
「あ……」
ルシエルを見つけたアルフレッドは、慌ててマリエの肩を押して一歩下がった。
その様子を見たルシエルはとても居た堪れない気持ちになって、二人から目を逸らしその場から駆け出した。
(分からない!あれはどんな状況?なんで?なんでアルとマリエが?)
背後からアルフレッドがルシエルを呼ぶ様な声がした気がして、ルシエルは咄嗟に隠れられる場所を探した。
もし追ってきてくれているのだとしても、今はアルフレッドの顔は見たくなかった。
背の高い生垣に身を隠したルシエルは、先ほどの光景が頭にチラついてどうしようもなかった。
アルフレッドの背に回るマリエの腕。
密着した身体。
アルフレッドの胸に埋められたマリエの顔。
まるで浮気現場のようだったその光景は、ルシエルの頭から離れない。
(やっぱり、あれは……ゲームのシナリオ通り?……だとしたら、マリエは、ハッピーエンド……?)
そうして生垣の影に隠れてしばらく。
誰も近くにいないことを確認して、ルシエルは自分の屋敷へと逃げる様にして帰った。
屋敷に着いたルシエルが自室に引きこもった直後。
ルシエルの部屋をノックする音が聞こえた。
今は誰とも会いたくない、そう思ったルシエルは寝たふりを決め込んだ。
しかし、それから何度かノックがした後、ミシェルの声とともにドアがバーーンと開けられた。
「ルゥー?寝てるの?寝てないわよね?……あら。寝てるの?とにかく、起きてちょうだい。アルフレッド様がいらしてるわよ?」
「えっ?」
ミシェルのその言葉にルシエルはハッと顔を上げた。
「まあ!ルゥ、そのお顔……。今日は王宮に行く日だったわよね?アルフレッド様に何か酷いことを言われたの?」
「えっ?……あっ」
ミシェルに言われて、今やっと自分が泣いていることに気付いたルシエルは慌てて枕に突っ伏した。
「ルゥ?何があったの?アルフレッド様が原因なら、私が一言物申してくるわ!」
本気で殴り込みに行きそうな雰囲気のミシェルをルシエルは顔を上げて慌てて止めた。
「違う!アルフレッド様は悪くないから!……その、僕の、気持ちの問題と言うか……だから……っ」
「気持ちの問題って?」
「それは、その……と、とにかく、今は……会いたく……なくて……」
そのまま黙ったルシエルを見て、ミシェルは小さくため息をついた。
「分かったわ。アルフレッド様に上手く伝えてくるわね。……でもルゥ?何があったか知らないけれど、泣くほど辛いなら素直になった方が楽なんじゃないの?」
「…………」
再び枕に顔を埋めたルシエルを横目で見ながらミシェルは静かに部屋を出て行った。
(アル、何で来たんだろ……)
白い天井を見つめながら、ルシエルは抱き合う二人を思い出した。
(もし、あれがハッピーエンドにつながる場面だとすると……マリエがアルフレッドに相談をして、慰められているところだ……)
ルシエルはゲームの詳しい事を思い出そうとしてみたが、ツキンと頭が痛むだけで詳しい事はもう思い出せなくなっていた。
「ハッピー、エンド……」
ポツリと呟いた言葉が、天井に消えていく。
その時、ルシエルは大変なことに気付いてガバリと起き上がった。
(ハッピーエンド、ということは!ミシェルに何かしら被害が出るかもしれない!!)
ルシエルは慌ててベッドから降りた。
何をする訳でもないがじっとしていられなくて部屋の中を歩き回る。
しかしその足は震えて、思うように動くことは出来なかった。
ゲームの通りなら、アルフレッドルートでのハッピーエンドにて、ミシェルは修道院行きとなる。
修道院行きとはつまり、ルーズベルト家から離縁され俗世とも離れて、死ぬまでその場から出ることも許されず神に仕えることとなるのだ。
(ない!今のミシェルに限ってそれはない!)
ゲームのことをはっきりと思い出せなくても、ゲームのミシェルと現実のミシェルが別人だということをルシエルは断言できた。
確かにミシェルはマリエに対して小言を言っているようだが、それはゲームのような陰湿なものではないとルシエルは思っている。
では、マリエはアルフレッドに何を相談したのだろうか。
(……気になる)
ルシエルはハッとして窓の外を見た。
車止めにアルフレッドの馬車を探すが、すでに見当たらなかった。
(今度会ったら、アルに確認しなきゃ)
もしミシェルに何か被害が及ぶなら何か手を打たねば、とルシエルは決意を新たにしたのであった。
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