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ゲームと現実 …4
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「おおかた、あの女に絆されたのだろう?」
吐き捨てるようにそう言ったランバートが、紅茶を飲み干した。
フィリップは何も言わずに腕を組む。
「……ルシエル君は?何か言いたいことはないか?」
カップを置いたランバートがルシエルを見る。
それまで二人の話を聞いているだけだったルシエルだったが、ランバートに背を押されるようにして、ゆっくりと口を開いた。
「私は……シンプソン嬢を虐めたりしていません。もちろんミシェルも」
「じゃあ、嫉妬してることについては認めるんだな?」
「フィリップ、お前は何がしたいんだ?片方に……惚れた生徒に肩入れするなど、騎士以前に指導者として失格だ」
フィリップの目に動揺が見てとれた。
「私は、惚れてなど……っ!」
そう言って俯いたフィリップを見て、ランバートは大きなため息を吐いた。
「はぁ……先程から彼女のことを呼び捨てしてるのは何処のどいつだ?」
ランバートの言葉にフィリップが言葉を詰まらせた。
「あと、これを言うのは憚れるが……マリエ・シンプソンには、私も口説かれたぞ」
ランバートの告白にルシエルもフィリップも耳を疑った。
「だからフィリップ、目を覚ませ。マリエ・シンプソンは"そういう女"なんだ。殿下や私やお前だけじゃない。他にも大勢いるんじゃないか?……そんな女、入れる上げだけムダだ。気付け。おそらく、お前はあの子が殿下に近づくために利用されているだけだ」
ランバートの言葉に、ルシエルは頭を抱えた。
ゲームでは攻略対象は一人だった。
その一人を落とすために、他の攻略者を利用したりするようなストーリーではなかったはずだ。
確かにここはゲームではないので、自由に他の攻略者達と関わることは出来る。
しかし、狙った相手を落とすために、他の人を利用するというのは如何なものだろうか。
マリエはアルフレッドを手に入れるために、他の攻略者を利用しているというのだろうか。
(ゲームと現実の差……マリエもまた、ゲームに生きる人物ではない)
ルシエルはマリエという人間のことをよく知らないことを、今更ながらに気付いた。
「先輩も……ってどういうことですか?」
フィリップがランバートを見る。
「そうだな……あの子が貴族棟に編入してきてすぐだったかな、転んだとかで医務室にやってきたんだ」
ランバートの言葉に、ルシエルは何か引っかかるものを感じた。
そうして思い出したのは、ゲームの主人公マリーがユーグ・ランバートを攻略対象者に選んだ後に起こる出来事だ。
マリーは貴族の誰かに押されて転び、膝を怪我する。
そして行った医務室でランバートと話すのが最初のイベントだ。
「最初は話が合うし、面白い女だなと思っていたが……ある時からやけに馴れ馴れしくなってな……園芸部に入りたいと突然言い出した時に"あぁ、これが目的か"と気付いたワケだ」
「目的って?」
「アルフレッド殿下に近付くことだ。……あの子がたまに中庭に行って、殿下にちょっかいをかけていたのは知っていたからな。温室がどうこう言っていたから、人目を気にせずに殿下に近付きたいと狙っていたのだろう」
ランバートの言葉を聞きながら、ルシエルの頭は忙しくゲームを思い出していた。
ゲームでユーグ・ランバートのルートに入ると、そのうちランバートが園芸部に誘ってくれる。
そして、逢瀬の場所が医務室から温室へと変わって行くのだ。
現実ではランバートはマリエを園芸部には誘わなかった。
というより、誘うほど仲良くなる前にマリエが園芸部に入りたいと言い出したのだろう。
ゲームのランバートは、園芸部という"居場所"をとても大切にしていた。
おそらく現実でもそこは同じなのだろうとルシエルは考えた。
だからこそ、アルフレッドに近付くために園芸部を利用されることを、ランバートは嫌がったのだろう。
「フィリップ、お前もそうだろう?気のあるフリをして近付いて来て、結局アルフレッド殿下のことで利用されている」
「俺は利用されてなど……」
「今まさにそうだろう?アルフレッド殿下に近しいルシエル君とミシェル嬢を遠ざけようとしている。マリエ・シンプソンのために」
「いや、そういうことではない!このルシエル・ルーズベルトとミシェル・ルーズベルトが、マリエを虐めていると聞いたから!」
「だから、その話を誰から聞いた?マリエ・シンプソン本人から聞いた話ではないのか?彼女がルシエル君を陥れるためについた嘘では?……あぁ、あの子は嘘をつくような子ではない、とかいうのはナシだぞ?それを言うなら、ルーズベルト姉弟もイジメをするような子達じゃない、で話は終わりだ。……なぁ?お前の正義ってなんだ?今、どこに正義がある?お前の心は?」
「……っ」
ランバートの言葉に、フィリップは言葉を詰まらせた。
そしてしばらく考える素振りをした後にゆっくりと口を開いた。
「確かに……片方から聞いた話だけで、ルシエル・ルーズベルト君を責めるのは間違っていた。第三者から裏を取ってはいなかった。その……嫉妬の件も……アルフレッド殿下と付き合っているのなら、当然の話だし……ええと、つまり…………すまなかった」
フィリップがルシエルに向かってガバリと頭を下げた。
「えっ?あっ……えっと」
指導者という立場の人間に頭を下げられたことにびっくりしたルシエルは、ランバートに助けを求めるように視線を投げた。
「謝罪、受け取っておけ。先走ったこいつが悪いんだから」
「あの、えっと…………はい。分かりました」
ランバートの言葉を受けてルシエルがそう言うと、フィリップが顔を上げて、嬉しそうにニカッと笑った。
その笑顔を見て(あぁ、フィリップ・アーガイルの魅力って、こういう真っ直ぐなところだったなぁ)と、人ごとのようにゲームに思いを馳せたルシエルであった。
その後、ランバートからアルフレッドのことでからかわれたルシエルが、顔を赤くしたり青くしたりする様子を見たフィリップは、自分のルシエルに対する認識を改めた。
そうして、「虐められている」と泣きついてきたマリエのことを、フィリップはぼんやりと思い返すのであった……
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