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アルフレッド誕生日、前日 …1
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それはアルフレッドの誕生日パーティの前日。
学園にてその日の授業を終えたルシエルの元に、一人の学生がやってきた。
「ルシエル君、ちょっと良いかな?」
「え?あ、うん」
ルシエルの目の前に立っていたのは、ジョルジュ・フランシス。
薄い茶髪に深い青の瞳。
身長はルシエルとほぼ変わらず、可愛らしい顔付き。
フランシス公爵の長男で、時期宰相と噂されている人物である。
そして、ゲームの攻略対象者の一人だ。
ゲーム内では弟のような可愛い系キャラだったが、現実の目の前にいるその人はただ冷たい印象を放っている。
ジョルジュが歩き出したので、声をかけられた手前無視するわけにもいかずにルシエルが付いていくと、人気のない廊下でジョルジュは立ち止まった。
「今日の17時、誰にも言わずに王宮のバラ園まで来てくれる?」
「……?」
アルフレッドの誕生日の前日。
王宮のバラ園。
ゲームの攻略対象者。
それらが揃った事は少なからずゲームのシナリオに何か関係するのではないかと、ルシエルは思い至った。
ゲームではこの日、ミシェルがバラ園に被害をもたらして、その結果断罪される事になるのだ。
それに気付いた途端、ルシエルは自分の心臓がバクバク言うのを聞いた。
「なん、で?」
なんとかその言葉を紡ぐと、ジョルジュは冷たい笑顔をルシエルに向けた。
「そうだね……来なければミシェルさんに何か起こる、かも?」
ミシェル、という決定的なピースを出された事で、ルシエルの足が震えだす。
その様子を見たジョルジュは「へぇ」と言って笑った。
「来てくれるよね?……あぁ、もちろん一人でね」
その言葉にルシエルは頷くしかなかった。
ジョルジュが満足そうに去った後、ルシエルはその場に座り込んでしばらく動けなかった。
ルシエルはゲームの事を思い出した時から、この日を回避するためにいろんな事をやった。
姉のミシェルは幼い頃と比べると随分と性格が丸くなった。
彼女を見て「悪役令嬢」などと言う人はいないだろう。
ルシエルが花を育てた事で、花を無下にするような性格でもなくなった。
また、ルシエルが色々と口出しした成果か、ミシェルの髪型や服装はゲームとは全く違う。
何より違うのは、ミシェルはアルフレッドと婚約していないどころか、アルフレッドの側近のレオンと恋仲である事だ。
そして、アルフレッドはルシエルと付き合っていて、ゲームの主人公とは通じていない。
先日改めてアルフレッドと愛を確かめ合ったルシエルは、すっかり油断していた。
油断というよりも、現状を見ればゲームのような最悪のイベントが起こる筈はなかった。
それがどうしたことか。
まさかこんな風にゲームのピースを突き付けられるとは、ルシエルは夢にも思っていなかった。
攻略対象者の一人、ジョルジュの先程の言葉。
"ミシェルに何か起こる"
とは、どういう事か。
まるで、ルシエルの不安を知っているかのような口ぶりだ。
(まさか……ジョルジュ・フランシスは、ゲームの知識が、ある?)
そう考えるのがしっくり来た。
ゲームと違う展開の中心にいるルシエルに、カマをかけたのかもしれない。
そういう考えに至った当初は、ルシエルはジョルジュの言葉は無視しようと思った。
相手の方が格上の貴族とは言え、誰も見ていないところでの口約束だ。
だから無視することも出来るであろうと。
相手がかけた罠に、安易に掛かる訳にはいかない。
何より、いくら脅されたところで、現実のミシェルは王宮のバラ園で"何か起こす"訳がないのだ。
すでに"バラ園に行くときは、必ず自分も一緒に!"とルシエルはミシェルに口を酸っぱくして言っている。
しかし、ふとこんな考えも浮かぶ。
(もし、ジョルジュ・フランシスの言葉通りに、ミシェルが何か起こすのではなく「ミシェルに何か起こる」のだとしたら?)
そんなことをされる覚えは全くないが、ゲームとは関係のないところでの脅しだとしたら。
そう考えたルシエルは、とにかくミシェルの無事を確認しようと足を動かした。
学園にミシェルが残っていないことを確認し、学園の従事にもミシェルが先に帰った旨を確認してから、ルシエルは自宅に戻った。
そして、真っ先にミシェルの部屋を訪ねた。
……が、そこにはミシェルはいなかった。
侍女に聞けば、まだ学園から帰っていないと言う。
ミシェルがちゃんとルーズベルト家の迎えの馬車に乗ったことは確認済みなので、途中で何かあったのだろうかと心配になる。
侍女とそんな話をすれば、過去にレオンの所に寄り道したりハンナと遊びに出かけていたりしたことが何度かあるようで、大して心配していない様子だった。
そんな時「夕飯までには帰ります」というミシェルからの言付けが、伝令から届いた。
(なんでこんな日に寄り道なんてするんだよ!!)
あろうことか自分が一番恐れていた日にミシェルの姿が見えないことが、ルシエルを混乱させた。
王宮のバラ園に行っていないことは信じたいが、先程のジョルジュの言葉が蘇りルシエルに不安が押し寄せる。
ジョルジュではなくマリエが何か仕掛けてくるかもという考えも浮かんだが、彼女は明日のアルフレッド誕生日会でのお披露目のためにバラ園の準備に必死になっている頃だ。
ルシエルは自室で落ち着きなく動き回った。
(うあぁぁ……気になるーー!)
時刻は16時。
夕飯はだいたい17時頃。
ミシェルが帰ってくるまで一時間ある。
ルシエルはそれまで気持ちが持ちそうになかった。
(そうだ。バラ園にミシェルがいない事だけ確認すれば良い。そしてすぐに帰ってこよう!)
ルシエルがこれまでずっと恐れて来た、アルフレッドの誕生日前日のイベント。
それが起っていないか確認してこようとルシエルは思った。
ミシェルがどこに出かけたのかは分からないがルーズベルト家の馬車を使っているので、護衛を兼ねた侍女のコレットも、ミシェルを悪い輩から守るための強面の御者も一緒だから、そうそう事件に巻き込まれることはないはず。
ジョルジュの脅しの意味は計りかねないが、ルシエルを呼び出すためにミシェルを賊に襲わせたりというような馬鹿な真似をする人物でないことは分かっている。
ミシェルに何かすると言っても、せいぜい足止めくらいだろう。
しかしゲームをチラつかせたジョルジュが気になって仕方のないルシエルは、王宮のバラ園を覗きに行くことを決めたのであった。
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