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マリエ・シンプソン …1
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マリーが産まれたのは、王都の城下町の西区。
城下町の外れで育てた花を売っている花屋だ。
女手一つで育てられた彼女は、幼い頃から母親の仕事を手伝い、慎ましく暮らしていた。
父親は早くに死んだと聞かされていた。
多少寂しさを感じつつも、優しい母との生活は貧しいながらとても幸せなものだった。
そんな彼女は、10歳の時に土手から滑り落ちて頭を強く打った。
数日寝込んだ後に目覚めたマリーは、母に戯言を言うようになった。
「私は、ヒロインに転生したんだ」と。
それからマリーは、自分のことを「マリエ」と名乗るようになった。
誰もが、彼女は頭を打ったせいでおかしくなったのだと思った。
マリーは頭を強打したことで前世のことを思い出した。
ヒラシマ マリエ。
それが前世の名前だ。
前世のマリエの実家は、花農家を営んでいた。
主商品はバラであり、品種改良も手掛ける農家だ。
高校を卒業と同時に家業を手伝うようになったが、都会の大学に通いキラキラと大学生活を謳歌する友人を見て、自分の人生に疑問を持つようになった。
合コンがどうとか彼氏がどうとかコスメがどうとか話す友人達が、遠い存在に思えた。
ある時、友人の話が全て自慢話に聞こえてきて、友人との関係を切った。
異性と付き合う機会もオシャレする機会もないまま25歳を過ぎた時、叔母から見合い写真を渡された。
何の特徴もない顔の、堅物そうな公務員の男だった。
その時マリエはそれまで溜まっていた何かが爆発した。
自分がキラキラ出来ないのは、この家のせいだと思った。
マリエは実家を出て、貯めていたお金でトウキョウで一人暮らしを始める。
ここで自分も友人のようにキラキラ出来るのだと信じて。
花から離れるつもりだったのに、トウキョウでついた仕事は花屋のバイトだった。
というより、マリエにはそれしかなかった。
トウキョウに行けば、オシャレして綺麗になれると思っていたのに、今までそれらと無縁で過ごしてきたマリエが突然変身出来るわけもなかった。
友人も出来ず、バイト先と家の往復の毎日。
一念発起して家を出たのに、マリエはキラキラしたものを得ることは出来なかった。
そんなマリエの癒しになっていたのが、恋愛シミュレーションゲームである。
現実では出会えないイケメン達との恋。
その中でも、マリエがとてもハマったゲームがある。
そのタイトルは「恋の花」といった。
5人の攻略対象者はどれも魅力的で、マリエは全ルートを制覇した。
中でも王子様のアルフレッドが、見た目も性格も何もかもがマリエのツボで、ハッピーエンドを4度は拝んだ。
何よりマリエがそのゲームにのめり込んだ理由が、主人公が自分と似ていたことである。
主人公の初期設定の名前が「マリー」で、自分に似ていたこと。
マリーが花が好きで、花屋で働いていたこと。
アルフレッドルートではバラ園を任されて、自分が品種改良したバラを植えること。
その他の攻略者も、マリーの花の知識を使って好感度を上げていく。
それら多くのことが自分と重なり、「恋の花」は自分のためのゲームだと思うようになった。
攻略サイトも読み込んだし、ファンが立ち上げた二次サイトもサーフィンした。
もちろん、ゲームでは「マリー」を「マリエ」に変えて操作した。
ゲームの中の「マリエ」は、とてもキラキラしていた。
そして、ゲームの主人公になる夢を何度も見た。
だから、自分がゲームの世界に転生していることに気付いた時、彼女はそれをすんなり受け入れた、
私はやっぱり"ヒロイン"だったんだ。
そう、思った。
不幸な人生を歩み、不幸に死んでしまった自分への、神様からの贈り物だと。
その後マリエは、自分のことを「マリエ」と呼ぶようになった。
自分の世界なのに「マリー」と呼ばれるのが気に食わなかったのだ。
前世を思い出したマリエは、ゲームのことをひたすら思い出しては書き出した。
そしてその日から、アルフレッドとハッピーエンドを迎えるために行動を起こした。
ゲームの「マリエ」と同じような設定になるように振る舞ったのだ。
バラの品種改良に関しては前世では辛い仕事だったが、今期ではそれが報われると分かっていたので、何の苦にもならない作業だった。
何より、前世の花の知識はマリエの大きな力となった。
平民街での暮らしは前世の花農家を彷彿とさせ、母に当たり散らすことも多々あった。
「もっと真面目に働きなさい」という母の言葉に「私はいつか王子様と結婚するんだから!」と言い返して、残念な目をされた意味が分からなかった。
自分は主人公なのだから、いつか王子様が迎えに来るのだと信じて疑わなかった。
15歳になり、王立学園の庶民棟に入学した。
マリエはその容姿から男子生徒にとても人気だったが、なぜか女子に嫌われていた。
「私の見た目が可愛いから僻んでるのね」と、マリエはたいして友達も作らなかった。
いつか自分はこんな場所ではなく上の世界にいくのだから、友人は必要ないとも思っていた。
そして記憶の通り、三年生になる直前にその時は来た。
シンプソン伯爵の使者だという男が花屋に現れ、その男の話に食い気味に頷いたマリエは、あっさりと貴族の養子になることが決まった。
そしてマリエは、王立学園の貴族棟へと編入となった。
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