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ゲームの最終日 …1
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「ん……」
(あ、れ?……ここは、どこだろ?)
カーテンの隙間から差し込む光に、ルシエルは目を細めた。
目線を動かせば自分の部屋でない事にハッキリと気付いて、慌てて起き上がった。
「なんで……ここに?」
自分のいる場所が王宮の離れだと気付いたルシエルは、昨夜のことを思い出した。
(あ、そうか……昨日……)
昨日。
それは、ルシエルがこれまで生きてきた人生で最も恐れていた一日。
恐れていたことは、予想と違うにせよルシエルの身に降りかかった。
しかしその恐ろしい出来事は、この部屋に来てから温かいものに書き換えられた。
そんな事をぼんやりと思い出していると、寝室のドアがノックされた。
すぐにドアの外からジャックの声が聞こえてくる。
「ルシエル様、お目覚めになられましたか?」
「あ、うん!」
昨夜、ジャックにも迷惑をかけた事を思い出したルシエルは、慌ててベッドから降りた。
「おはようございます」
「おはよう。あの、ジャック、昨日は本当に迷惑をかけて、ごめんなさい」
ガバリと頭を下げたルシエルを見て、ジャックは小さく溜息をついた。
「……本当に、本当に心配したんですからね?お屋敷の中も大変な騒ぎだったんですから!もう二度と、勝手に外出されませんよう」
「うん。ごめんね」
そう言ってシュンとするルシエルを見たジャックは、怒った顔をしつつも(本当に私の主人は可愛らしい)と、顔とは裏腹な事を考えていた。
「ところでルシエル様、今日はこちらで朝食をとった以降の行動表が、王妃殿下より届いております」
「行動、表?」
「はい。モタモタしてる暇はありませんので、さっさと朝食を済ませてくださいませ」
有無を言わせぬジャックの笑顔に、ルシエルはなぜか背筋を伸ばすのであった。
朝食後、ルシエルは王宮内の奥の一室へと連れて来られていた。
宮仕えの者が通る(王族と廊下で鉢合わせることのないように作られた)隠し通路を通って来たので、ルシエルは自分がどこに通されたのかはさっぱり分からなかった。
ただ、通された部屋はとても広く、備え付けられている家具も豪華で、普通の客間とは違うことが見て取れた。
ルシエルがその部屋に圧倒されていると、部屋の入口の扉がノックされた。
ルシエルをここまで連れてきた護衛が扉を開けると、そこには昨夜会ったビクトワール付きのエイデンが立っていた。
昨夜は従事らしいラフな服装だったのだが、今日は"ザ執事"としか言いようのない隙のない佇まいに、ルシエルは気圧された。
「ルシエル様、おはようございます。体調はいかがでございますか?昨夜はよく眠れましたでしょうか?」
「エイデンさん、おはようございます。その……昨夜は色々とご迷惑をお掛けしてしまって、本当にごめんなさい。皆さんに良くしてもらって、すっかり元気です」
そう言って笑ったルシエルを見て、エイデンは僅かに口角を上げた。
「それはようございました。それでは僭越ながら私より本日の予定をお伝えしたいと思うのですが、その前に一つ確認させていただきたい事がございます。大変失礼な質問と存じますが、今後の対応に当たりとても重要なことですので、正直にお答えいただきたいのですが」
エイデンがあまりにも真面目にそう言うので、ルシエルは思わず背筋を伸ばした。
「はい」
「ルシエル様の恋愛対象は、男でしょうか?それとも女でしょうか?」
「……えっ?」
思いもよらなかった質問に、ルシエルは一瞬戸惑った。
しかしエイデンの物言いから、何か大事なことなのだろうと読み取ったルシエルは、戸惑いながらも口を開いた。
「男、です」
「承知いたしました。……では、スージーをここへ」
エイデンが扉に向かって何か指示を出すと、侍女の格好をした年配の女性が3人、部屋に入って来た。
「彼女達は、本日よりルシエル様付きとなる侍女でございます。何故、我が国では初めての事でございますので至らぬ点も多々あるやもしれません。その都度精進して参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます」
「えっ、侍女?」
「左様にございます。恋愛対象が男であれば侍女を付けるようにと指示をいただいておりますので」
「は……はぁ」
ルシエルはエイデンが何を言っているのかほとんど理解できなかったが、それを質問する前に侍女3人が自己紹介と挨拶を始めた。
勢いに押されるまま「よろしくお願いします」とルシエルが返せば、エイデンは満足気に頷いたあと「私も含め、この者共はルシエル様の家来となりますので敬語は不要です」と注意した。
そうは言われても、王宮に仕える人達との距離感が、ルシエルには分からなかった。
「では、今後のスケジュールですが……ルシエル様は本日こちらのお部屋にて夜会のご準備をお願いいたします。先ほども申しましたが、初めての事でございますので、お時間に余裕を持って予定を組んでおります。まずは、夜会での知識について二、三身につけていただきたいことがございますので、よろしくお願い致します」
「夜会ですか?……あ、えと」
「はい。アルフレッド王太子殿下の誕生日パーティーにございます」
「あ……」
(バラ園でのイベントと断罪イベントの事ばかり気にして、忘れてた!!)
驚いた顔のルシエルにエイデンは頷いた。
「あんな事があって、それどころではなかったでしょう?ルーズベルト閣下には、こちらが責任を持ってご準備させていただく旨を伝えておりますので、そちらへの心配はご無用です」
「えっ?」
父に一体何を話したのだろうか、また夜会の準備は心配するほど大事な事だったろうかとルシエルは内心首を傾げた。
「では、ご準備の程、よろしくお願いいたします。あぁ、ジャック……でしたね?あなたは私に付いてくるように」
ジャックはチラリとルシエルを伺った。
ジャックに何の用だろうとルシエルは思ったが、王妃付きのエイデンに逆らう選択肢などない。
ジャックに小さく頷いて見せた。
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