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ゲームの最終日 …5
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アルフレッドに手を引かれ、ルシエルはダンスをするために会場の真ん中へと移動していた。
アルフレッドがファーストダンスに自分を選んでくれた。
嬉しくて泣きそうになった。
しかし夢見心地の幸せは、すぐに地へと叩きつけられた。
「男?」
「殿下が男を……」
「どういう事だ?」
「お戯れを……」
ざわざわと、会場に異様な雰囲気が広がって行く。
ダンスをする位置へと着く頃には、ルシエルは先程とは違う意味で泣きそうになっていた。
男同士でのダンス。
それはこの国では、有り得ない組み合わせ。
会場の動揺も当然のことだった。
「アル……アルフレッド様、手を、お離しください」
ルシエルはアルフレッドから手を引こうとした。
しかし、その手はしっかりと握られていて離れない。
「嫌だ」
そう言ったアルフレッドは、ダンスをするためにルシエルと向き合う。
「でっ、でも……」
ルシエルは辛かった。
周りの視線が痛い。
前世で経験した、周囲の"拒絶"。
それを思い出して、足が震え始める。
なにより、アルフレッドがその視線を集めているのが辛かった。
(アルフレッドは、こんな目で見られちゃダメだ)
そう思って離れようとするのに、アルフレッドに腰をホールドされてしまう。
「ダメ……ダメ、です」
ルシエルが力一杯、アルフレッドを振り払おうとした時である。
少し離れた場所から、ざわめきが聞こえてきた。
ルシエルがそちらを向くと、そこには軍服を着た二人が手を取り合ってダンスの位置についていた。
ルシエルが驚くのも束の間、すぐに別の方向からざわめきが聞こえてきた。
人垣が割れたかと思えば、そこから現れたのは王女のヴィヴィアンと第二王子のエドワードである。
それぞれ婚約者とともにルシエルたちの側まで来て、ダンスの位置についた。
ヴィヴィアンはその直前にルシエルの方を見て、ニコリと微笑んだ。
(えっ?どういうこと?)
ルシエルは混乱する。
何が起こっているのか分からなかった。
「どういうことだ?」
「あのお相手は、公認なのか?」
「まさか、アルフレッド様が……」
「見て!あの刺繍、お揃いなのではなくて?」
周囲のざわめきが大きくなった、その時である。
突然、水を打ったように会場が静かになった。
その原因を作ったのは、国王と王妃であった。
「はっはっは。めでたい日だ。どれ、私たちも久し振りに」
「えぇ、喜んで」
国王と王妃が手を取り合って、壇上から降りてきたのだ。
普段、国王が国民と同じ目線の高さまで降りてくることはない。
まさに異常事態である。
二人は人垣の間を進み、ルシエル達の側まで来た。
「ルシエル、その服、よく似合っていてよ」
王妃ビクトワールに声をかけられて、ルシエルはアルフレッドを引き剥がして頭を下げた。
「っ!……この度は、誠にっ」
突然のことで、何も言葉が出てこない。
そんなルシエルに、ビクトワールは優しく微笑んだ。
「ルシエル、頭を上げて?……大丈夫、私達がついてるわ。アルフレッドのパートナーとして、宜しくね?」
「……っ」
ルシエルは今度こそ言葉をなくした。
皆が見ているこの場で、王妃に『よろしく』と声をかけられたのだ。
誰もがルシエルを"アルフレッドのパートナー"として認めざるを得ない瞬間であった。
「アルフレッド……良いわね?」
「ええ、気持ちは決まっています」
アルフレッドの返事を聞いて、王妃は微笑んだ。
国王グラシアンが頷いてチラリと楽団の方を見ると、ダンスの音楽が流れ始める。
それは、ルシエルが今朝、急遽練習させられたスローなワルツだ。
緊張で震え始めたルシエルの腰を、アルフレッドが優しくホールドする。
そんなアルフレッドを、ルシエルは不安だらけの目で見上げた。
「……っ」
周りが踊り始めても、ルシエルは最初の一歩を踏み出すことが出来なかった。
さらに緊張とプレッシャーで、今朝習ったダンスを全く思い出せなかった。
何より周りの目が気になってしまって、どうしても身体が動かないのである。
何より、この状況がいまいち理解できずにいた。
「ルゥ、私を見て」
アルフレッドが、ルシエルの腰をグッと抱き寄せた。
アルフレッドと身体が密着したことで、ルシエルの意識は一気にアルフレッドへと向かった。
(近い!皆の前なのに!近い!)
「大丈夫。しっかりリードするから。……私に委ねて?」
そう言って真剣な顔をしたアルフレッドを見て、それから何気なく周りへと視線を漂わせたルシエルは、ハッとした。
ここで踊らなければ、声をかけてくれた王妃陛下だけではない、応援してくれる皆、何よりアルフレッドに恥をかかせてしまうことに気付いたのだ。
今朝からの準備も今この時のためのものなのだと、ルシエルはようやく飲み込めた。
(何かよく分からない……けどっ、アルのために、やらなきゃ。……そうだ。皆が準備してくれた。僕にとって、夢の……舞台なんだから!)
ルシエルが頷くのを見て、アルフレッドが足を踏み出した。
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