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「………なんてな。わるい、困らせるつもりはねぇんだ。俺が言ったこと、気にすんな。
……とりあえず水とってくるから、待ってろ」
そういうと、先生は僕から手を離して、台所に行ってしまった。
………さむい、なぁ。
先生と離れたことで流れ込む空気が冷たい。
お水なんていらないから、先生の近くにいたいなぁ。
…なんて、ワガママだよね。
……それにしても、困るってなんだろう。
先生の言葉は、僕を喜ばせこそするものの、困らせたりなんてするはずがない。
だって、先生の言葉は、僕の声を求めてくれるものだったのに。
やっぱり、勘違いされちゃったのかな。
僕は、喋りたくないわけじゃない。
………喋れない、のに。
………僕、今までどうやって声出してたんだろう。
人に向かって喋ろうとしたのなんて、何年振りかわからないけど。
無意識に喋ってしまったことは何回もあったはずなのに。
「……綺羅」
ふと顔をあげると、先生が立っていた。
でも、その表情はなんだか、かたい。
……どうしたんだろ。
「………お前、ご飯とか、飲み物どうしてる」
…あ、なるほど。
冷蔵庫見られちゃったのかな?
昨日でお弁当が全部無くなってしまったから、今、冷蔵庫は空っぽだ。
文字通り、本当にすっからかん。
でも、飲み物って、どういうこと?
そう言われれば確かに、お水を取りに行った先生は、その手になにも持っていなかった。
……水道のお水じゃダメなのかな?
不思議に思って、台所まで歩いていく。
そして、レバーを上げてお水をだす。
………………あれ?
確かに上がっているはずの、レバー。
けれど、お水は一滴も落ちてこない。
呆然とシンクを見つめるけれど、なにも変わらない。
……どうして、お水、でないの?
あれ?
でんき、おゆ、たべもの、おみず。
いつのまにか、全部、ない。
…………あぁ、そうか。
なんで今の今まで気付かなかったんだろ。
ふらり、とよろめいた体を、先生はしっかりうけとめてくれた。
後ろを振り返ると、やはり強張ったまんまの、先生の表情。
「………綺羅、お前、まさか…」
そう問いかける声も、こころなしか強張っている。
そうだよね、こんな様子見たら、分かっちゃうよね。
まぁ、僕に"両親"なんてもともといないけれど。
そうだよ。
先生の想像、きっとあってるよ。
ーーーーー僕、とうとう捨てられちゃったみたい。
はは。
口から乾いた笑いが溢れた。
それを見た先生は、また、自分も苦しいみたいな顔をする。
……そんな顔させて、ごめんね。
でも、もう僕は笑う以外に、どうしていいのかわかんないよ。
ーーーー憎まれて、叩かれて、蹴られて。
いなくなればいいって、生まれてこなければいいって、そう言われた。
でも、僕は今、生きている。
それはもちろん、オトコノヒトに、生かされていたから。
それで、じゃあ、その人がいなくなったら、どうなるんだろ。
それって、つまりさ、つまり、
僕は、本当に"死ね"って、言われたってことだよね?
ーーーー死ねって思うなら、本当にいらないなら。
僕のこと、産まなきゃよかったのに。
なんで、僕を産んだの。
なんのために、僕は、産まれたの。
どこまでも暗い考えにおちいりそうになったとき、ふわりと優しい花の香りに包まれた。
力強い腕が僕の背中に回って、なだめるように背中をやさしく撫でていく。
「……熱、あがってんな」
ひたいに張り付く前髪を、再び後ろに撫で付けられた。
そのまま、僕の頭を先生の胸に押し付ける。
そう言われると、とたんに体のだるさが蘇ってきて、先生の胸に体重を預けた。
………そういえば、熱、あったんだっけ。
すっかり忘れてしまっていた。
「…………………。」
舞い降りる、沈黙。
僕の耳に届くのは、先生の鼓動の音と、息遣いだけ。
とく、とく、と一定のリズムを刻む、先生の鼓動の音をきいていると、なんだか安心できた。
そして、たっぷり沈黙したあと、先生は言った。
「………おし、綺羅。お前、俺の家に来い」
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