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……そうして今ここに至る、わけなのだけれど。
くるりと一周、自分が寝ていた部屋の中を見わたしてみる。
ーーーー机の上にある、教科書。
かけられている制服。
近くにおいてある、通学カバン。
見慣れない景色のなかにある、見慣れたそれらは、全部僕のもの。
僕のものが、そうあることが自然みたいに、先生の家の中にある。
……それは、僕がここにいていいんだって、僕のことを肯定してくれているみたいで。
自然と緩む頬をおさえることができない。
「おーい、綺羅、おきろよー……って、もう起きてんのか」
先生の声に、乱れていた前髪をかき集めて、とっさに顔を隠す。
……あぶない。
ひとりでニマニマしてるのバレるところだった。
どうにかだらしない顔を隠せたことに、一安心。
だけど。
「………まだ、顔見られんの嫌なのかよ」
その声はすぐそばで聞こえて。
そのまま、ぐいっと前髪をあげられる。
あ。
と思う間にも視界はクリアに。
つまり、僕のニヤケ面が先生の視界に…!
びっくりしたような先生の顔。
「……!!!お前、わらって……!」
けど、僕はそれどころじゃない。
あんなだらしない顔を見られたことが恥ずかしくて、両手で顔をおおって、首を振りまくる。
………恥ずかしいよぅ。
顔も、耳も、全部あつい。
……これ、絶対耳まであかいやつだよね…。
先生、これ今どう思ってるんだろ……。
顔を覆う手の指の隙間から、ちらりと先生を見てみる。
………あれ?
先生も、なんだか顔が赤い………?
「……………?」
不思議に思って、首を傾げる。
すると、先生は腕で口元を覆って、一言。
「反則だろ………。お前、笑顔かわいすぎ」
…………?
反則?なにが?
というか、あれ?
…………カワイイ?
「…………ッ」
ボンッ。
そんな音が、聞こえた気がする。
ほんとうに、今までの比にならないくらい、顔があつい。
可愛いって、男としては褒められてるか微妙なのかもしれないけど。
……だめだ。
……うれしい………。
先生に言われたっていう、ただそれだけで、心臓が走った直後みたいにギュンギュンする。
なんだか、とてつもなく恥ずかしくて。
先生も、僕も、赤面したまま見つめ合う。
………シュールだ…。
なんともいえない気まずい空気が流れる。
けれど、その空気を断ち切るように、頭上で、パチンと音がした。
「…………?」
すると、先生の手が離れても、前髪が落ちてこない。
「……おし。やっぱ綺羅、お前、その目隠すの勿体無いわ。今日からそうやって生活しろ」
そうしてはじめて、自分の前髪がピン留めで止められていることに気が付いた。
クリアな視界。
それは、とっても過ごしやすいんだろうけど。
ーーーー『その目で、俺を見るな!!!!!』
胸をよぎる、一抹の不安。
だけど、それを打ち消すように、先生の力強い声が響く。
「余計なこと、考えんな。」
……先生の声は、不思議と僕の中に染み渡っていく。
「綺羅が、自分の意思で、やりたくて、顔を隠してるならとめはしねぇけど。もし誰かに何かを言われて隠してるなら、絶対にもったいねぇ」
……じぶんの、いし。
考えたこともなかった。
ーーーー見られちゃだめ、じゃなくて、僕がどう思うか。
「綺羅がもし少しでも、俺を信じてくれるなら、1日でいい。学校にそのまま行ってみてくれ。絶対皆俺と同じこと、言うぞ」
そんなの、僕にはちっとも想像できない。
だけど。
………やってみよう。
って、そう思えたから。
躊躇いながらもゆっくりと頷く。
すると、先生は蕩けそうなくらいに甘くわらってくれて。
「ふ……。そうか、よかった。
……まぁ、外に出るのは、今日はまだ熱下がりきってないから、体調回復してからにはなるけどな。」
その言葉にハッと時計を見ると、時刻は午前11時。
………?!!?!?
学校、始まってる………!?
「……プッ、そんな慌てなくても、今日は土曜だ」
先生の、その言葉に肩をなでおろした。
……よかったぁ。
って、そこでハッと気付く。
………あれ、先生、僕の考えてること、なんでわかったの………?
「お前、前髪ないと、意外と表情豊かなのな。わかりやすい」
そう言って、先生の手が優しく髪をすいていく。
……気持ちいい。
思わずうっとりしてしまう。
気を抜けば自分から擦り寄りそうになるのを、必死に抑えていたのに。
「はは、気持ち良さそうだな」
「!??!」
表情だけで、そんなことまでバレてしまうらしい。
「なるほどな、これは便利だ。この土日、いやっつーほど可愛がってやるから、覚悟しとけよ?」
そう言う先生の顔は、相変わらず綺麗で、かっこよくて。
だけど、そう思っていることも、今となってはバレてしまうかもしれないわけで。
なにこれ、恥ずかしい………!
………でも、なんだか、"会話"してるみたい。
ぽかぽかする胸に手を当てて、こっそり微笑んだ。
ーーーーそして宣言通り、僕は2日間、先生にたっぷり可愛がられたのだった。
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